第21話 後悔
旅行まであと10日と迫ったある日。いつものようにちとせと通話をしようとLANEにメッセージを送ったが、既読が付かなかった。どうやらまだ眠っているようで、気づいていないようだ。
僕は仕方がないので、部屋の掃除や洗濯物の片づけなどをして、ちとせが起きるのを待った。
しばらくして、ようやくちとせから返信が来たのは、お昼を過ぎて午後の2時を回ったころであった。
『ごめん、頭痛くてお腹もいたくて調子悪いからしばらくLANE見ないね』
と書かれたメッセージ。と言っても、ちとせがいるのは北海道。僕には労わってあげることぐらいしか出来ないのだ。
『わかった。お大事にしてね』
『うん、ありがとう』
短い会話を交わして、トークも止んでしまう。まあ、本当に調子が悪いようなので、返事を返してくれるだけでもありがたいと思おう。そうポジティブに捉えて、一人の時間を持て余すことにした。
部屋を掃除した際に出てきた懐かしき卒業アルバムを見たり、大学時代のサークルなどの思い出の写真を眺めていると、つい昔のことを思い出す。
◇
それは、僕の元カノと当時付き合って一年ほどが経過したころだろうか?
彼女は、日々毎日忙しく大学生活を送っていた。授業が夜遅くまである日も多かったので、先に授業を終えた僕が、合いかぎを使って彼女の部屋に行き、夕食を作ってあげたりなど、出来るだけ彼女をサポートしてあげるように努力していた。
だが、とある日のことだった。今日はアルバイト先にヘルプを頼まれて、急遽アルバイトに駆り出されたのだ。アルバイトは家の近くでやっていたので、当然その日は、彼女の家に行かず、バイトが終わった後自宅に帰った。
バイトから帰宅してスマホを開くと、彼女からのメッセージが届いていた。
『にとり・・・来て・・・』
ただ、そう一言書かれたメッセージ。僕は何か良からぬことが起きたのではないかと心配して、すぐに電話を掛けた。2コールほどして彼女は電話に出た。
「もしもし、
『にとり・・・』
彼女は鼻をすすりながら僕の名前を呼んできた。どうやら泣いているようだ。
「大丈夫??」
『にとり・・・』
彼女は僕の名前を叫ぶだけで、何も発さない。
部屋の壁に掛けてある時計を確認すると、時刻は夜の12時を回っていた。
彼女の家までは電車で1時間以上かかる。よって、今からではもう終電は間に合わない。タクシーを使ってでも彼女の元へ行くか。そう決心した僕は、優しく穂波に
「今からそっちに行くからね?」
『待って・・・』
「ん?」
『来ないで』
「行くよ」
『来ないで!!!』
僕が必要に言うと、明らかな拒絶を示した。
「…」
僕は彼女に初めて拒絶されて、唖然として言葉を発することが出来なかった。
『本当に来なくて平気だから…こうやって、電話してくれるだけで安心できるから…』
「…そか、わかった」
『うん、ありがとう』
こうして、穂波を電話で慰めて寝かしつけるまで、僕は懸命に彼女の言葉を聞いていた。
結果として、次の日には何事もなかったように彼女は元気になった。しかし、それ以降しばらくギクシャクする日々が続いた。あれが彼女との分岐点だったのではないかと今でも思っている。
あの時、彼女の拒絶を押しきってでも、タクシーでも彼女のところへ行っていればよかった。そう今でも後悔をしている・・・
◇
ふと顔を上げて窓の外を見た。辺りは既に真っ暗となっており、いつの間にか3時間ほど感慨に耽ってしまっていたようだ。
部屋に視線を戻すと、端の方でピカピカと何かが光って点滅しているのが見えた。その光の方へ視線を向けると、スマホの通知ランプが点滅しているのが見えた。
腕を伸ばしてスマホを手に取って画面を開いた。
ちとせのLANEを開くと、『頭痛い』『後でタイムLANE見ておいて』とメッセージが届いていた。
『わかった』っと返事を返して、タイムLANEを見た。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
『もう生きてるのがつらい。なんであんな奴に出会ってしまったんだろう』
『リスカしよ』
『頭めっちゃ痛い、気持ち悪い。また、コウから連絡きたら承認してしまう・・・コウ・・・』
『あーもうだめだ・・・コウ・・・どうしてそばにいてくれないの?』
1時間おきに病んでる投稿を繰り返し、非常に見ていてつらかった。
僕はちとせに通話を掛けるため、通話ボタンを押した。
しかし、すぐに切れてしまう。
「あれっ?」っと思って、画面を見ると、どうやら誰かと通話中のため、かからないとの事だった。
僕はこの時、頭に嫌な不安がよぎる。まさか…コウって男に頼ったんじゃ・・・
僕は急いでどこかほかのグループにいないのか確認した。
すると、【幸せなグループ】にあおいさんと遼くん、友達の
僕はすかさずその通話に参加した。
「もしもし?」
『あぁ…にとりくんお疲れ様~』
「あの…ちとせは…ちとせを知りませんか?」
『え~ちとせ?』
『今さっきまで通話にいたんだけどね。コウのことで急に情緒不安定になって気持ち悪くなったって通話切っちゃった』
「分かりました、ありがとうございます」
そう言って、僕は通話を切って、ちとせにメッセージを送った。
『ちとせ?大丈夫?』
トーク画面をしばらく見つめたまま、何秒ほど経ったか分からない。
『通話』
そう一言書かれたメッセージを見て、僕はすぐに通話ボタンを押して電話を掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。