第17話 忠告
土曜日、ちとせに『行ってきます』とメッセージを送って、朝早くから家を出た。
ちとせは眠っているので、しばらく返事は来ないだろう。
そう見越して、僕はスマホを閉じて車へと乗り込んだ。
今日は父親から車を借りて、友達とドライブに行くことになっていた。
自宅から車を走らせること約1時間、ようやく友人の家に到着し、車に乗せる。
「おひさ~にとり!」
「よう、元気だったか?」
「おう!元気だったぜ!にとりは生きてたか?」
「う~ん、まあ?」
こいつの名前は『
「シートベルトした?」
「うん、おっけ!」
シートベルトの装着を確認したところで、再びアクセルを踏んで、目的地へと出発した。
東名高速道路に入り、大和トンネル付近の渋滞を何とか超えて、スムーズに車のスピードが出始め、静岡方面へと走っていた。
「それで?最近どうよ?調子は?」
浩平が、僕の近況を心配してきた。会った時はいつもこうやって僕のことを心配してくれるいい奴だった。
「あぁ?最近かぁ…まあ、ゴロゴロしてる」
「相変わらずのニートっぷりだなぁ…」
横目で浩平が苦笑いを浮かべているのが見えた。
「まあ…でも…」
僕は、一瞬ちとせのことを浩平に話そうかどうか迷った。
「でも??」
だが、浩平が僕のボソっといった独り言を聞き逃さなかったようで、追及してきた。
逃げ場がなくなった僕は、観念したように運転しながらちとせとの事を、出会いから事細かに説明するのであった。
すべての説明を終えて、顎に手をやりながら、浩平がどこか怪訝そうな表情を浮かべていた。運転しているため、浩平の方をまじまじと見ることは出来ないので、どうしたのかと横目で観察していると、浩平が何か思い至ったように真剣な表情で僕の方を向いてきた。
「その女・・・やめた方がよくね?」
それは衝撃的な一言だった。思わず、首をチラっと浩平の方に向けそうになってしまった。
「えっ?どうして??」
僕が尋ねると、浩平は真剣な眼差しを向けながら、訴えかけるように言ってきた。
「だってさ、その女の子、彼氏いるんでしょ?」
「まあ、【仮】だけどね」
「しかも、他に何人もネット友達いるんでしょ?」
「ん?まあ、そうだな」
「それってさ、にとりはただ弄ばれてるだけなんじゃないかな?」
「え?でも、最近はずっと一日中僕と通話してるよ?彼氏【仮】が構ってくれないから」
「だから、それが弄ばれてるんだって、男で自分のこと構ってくれる人ならだれでもいいって思ってるよそれ」
「え~そうかなぁ??」
「だって、蛍光ペン買ってって頼まれたんでしょ?」
「うん」
「まだ会ってないのに」
「うん、まだ会ってないよ?」
「…」
そこで、浩平はじとっとした冷たい視線を僕に送ってきて、会話をやめてしまった。そして、何秒か僕のことを見つめた後に、座席にぐったりと体を預けて、進行方向を向いた。
「にとりもだいぶ
「うるせーよ」
確かに、前の元カノに振られてから、僕は女という存在。いや、人間自体が恐怖の対象になってしまった感はある。だが、最近は薬も減ってきたし、状態も安定しているから大丈夫だと思ったんだけどなぁ…
「ま、俺からはもう何も言わないわ。とにかく!俺は忠告したからな?忘れんなよ?」
「分かったってば」
浩平は、僕にちとせと関わるのをやめろと忠告してきたのだ。この時の忠告を真面目に聞いていればと、僕はこの後何度も後悔させられることとなる。
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