第12話 好きな人
ちとせが友達との遊びから帰宅し、いつものように寝落ち通話を開始した。
友達と遊んで何をしたのか、どういう話をしたのか楽しそうに説明してくれた。
僕はその話を我が子を見守るような優しい笑みで聞いていた。僕はネッ友のため、当たり前だがちとせの友達とは全く面識がない。だが、ちとせの嬉しそうに話すのを聞いていると、こっちまでほっこりとしてきてしまうから不思議だ。
彼女の声のトーンもあるのだろうが、何より好きな女の子が楽しそうに話しているだけでこっちまで幸せな気持ちにさせられる。
『あ、そうそう!にとお兄ちゃん!!』
すると、興奮収まらぬままにちとせが違う話を切り出そうとしてきた。また何か嬉しいことでもあったのかと、「ん?」っと聞き返した。
『ちとせ、好きな人できた!!』
「えっ…」
僕は絶句して、何も発することが出来なくなってしまった。え?今なんて言った?
好きな人が出来たって言わなかったか??
『にとお兄ちゃん、にとお兄ちゃん??』
僕が言葉を失っていると、反応がない僕を心配してかちとせが何度も僕の名前を呼んでいた。僕は、はっ!っとなって、スマホの画面に向き直る。
『大丈夫だよ??にとお兄ちゃんは特別だからね??心配しないで?』
「うん…」
は?意味が分からない…ちとせにとっての特別ってそういう意味ではなかったのかと絶望した。じゃあ、どういう意味で今まで僕のことを特別な存在としてちとせは言っていたのか?まったくもって分からなくなってしまった。
僕は愕然とした気持ちと、憤慨しそうな気持ちをぐっと堪えて、ちとせに本音とは程遠い言葉を口にしたのであった。
「そっか、よかったね…」
『うん!』
嬉しそうな返事を返すちとせに対して、僕は何も言い返すことが出来なくなってしまった。それどころか、ちとせが幸せならばそれを応援したい。そんな思ってもみない考えが頭の中に浮かぶ。なぜ僕のことだけを見てくれないのか…そんなイライラという感情がどんどんと心の中で大きくなっていく一日となったのであった。
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