第13話 彼氏
僕は朝起きてから、いつものようにちとせと通話をしていた。だが、今日は夜の寝落ち通話は好きな人とすることになっているので、通話は夜までという約束になっていた。
ちとせの好きな人は、『ゆうき』くんという名前で、店舗販売員の社員さんとして神戸で働いているそうだ。向こうもちとせのことが、『好き』ということで、付き合っているらしい。
ちとせが嬉しそうにそう話してくれたのを聞いていて、ムカっとする気持ちを必死に抑えて、微笑ましく見守るかのように演技を続けていた。
最もメンタル的にやられてしまったのは、タイムLANEを見てしまったときだ。
ちとせは一日に3回ほどタイムLANEを投稿するのだが、その内容が・・・
『ゆうきくん大好き!ちとせのこと一番に思ってくれてて、いつもありがとう!本当に大好き♡早く会いたいな♡私も神戸に住もうかな…!』
・・・といったような内容で僕の心はむしばまれ、やるせない気持ちになってしまったので、速攻閉じた。もう今日はLANEをしないと誓ったのもつかの間。直後にちとせから着信がかかってきてしまい、渋々通話ボタンを押して、電話を出たのが3時間前の話だ。そして、ずっと通話しっぱなしで今に至る。
『それでね!今日もケープに買い物に行こうと思うんだけど…』
ちとせは、僕の気持ちなどさぞ知らず、いつも通りにニコニコと僕に話しかけてきていた。それが、今日の僕にとっては心をさらに締め付けさせた。
「なぁ…ちとせ」
『ん?どうしたの?にとお兄ちゃん??』
「僕って、どういう存在なの?」
『へっ?もちろん特別な存在の大切さんだよ』
「…」
『にとお兄ちゃん??』
「僕はずっとお兄ちゃん止まりのままなのかな…」
気が付いた時には、耐えられずちとせに対してそんなことを口走っていた。
『まぁ…今は『ゆうきくん』がいるからね…』
「そうか…」
ケロっとそう言ってのけるちとせに対して、悲痛の声で答えてしまう。まあ、そういわれるとは思ってたけど…これって僕は完全に振られたって暗に込められているのかな??
そんな悲観的な感情だけが、僕の頭の中をグルグルと回る。
『でも、別ににとお兄ちゃんが、嫌いになったわけじゃなくて…その、まだ私の彼氏になる可能性はあるよ??』
「え!?そうなの??」
『うん!だってね、友達が言ってたけど、まだ会ったことない人と付き合うのは、その人と会うまでは【彼氏(仮)】ってことだって言ってたし』
「あ、そうなんだ」
『うん!』
僕の言いたいことを分かったのかは不明だが、まだ僕にもちとせの【彼氏】になる可能性があるとはっきり口にした。確かに、今はゆうきくんという好きな人【彼氏(仮)】がいるかもしれないが、別にあったわけでもなければネットだけの関係性。いつちとせが飽きても、向こうが飽きてもおかしくはないのだ。だが、逆に言えば、僕も飽きられる可能性があるわけで…いや、ここでさらにナイーブになっちゃだめだな。わずかな可能性が残っている限りは、全力でアプローチしないと、男として生きている意味なんてないよな!
そう、自分に言い聞かせて、僕はちとせに優しい口調で言った。
「じゃあ、僕もちとせの彼氏になれるよう、全力で頑張ります!」
『うん、頑張って~』
「随分他人事だな!!」
『えへへへへ、ごめん、ごめん』
ケラケラと笑って誤魔化されたような気もするが、今は明確にちとせが【彼氏】という可能性を自分にも持っていることを示してくれただけでも気持ちがかなり楽になった。
こうして、僕は改めて、ちとせを彼女にしたい。そう心に決める一日となったのだった。
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