第5話 住みかと元カレ
今日も歯磨きなどを済ませて寝る準備を整えて、ちとせに電話を掛けた。
「もしもし?」
『ごめん、ちょっと通話待ってもらえる??』
「おう、わかった」
『ごめんね?』
そういってブチッっと一度通話をすぐに切られてしまった。どうやらタイミングが悪かったようだ。ちとせが準備できるまでの間。スマホゲームをしながら待っていると、30分ぐらいした後だっただろうか?ようやくちとせからメッセージが届いた。
『ごめんね、お待たせ~かけて!』
と書かれたメッセージが届き、ようやくかと思いつつ、通話ボタンを押して、ちとせに通話を掛けた。2コールほどなった後、繋がった。
スマホをスピーカーモードにして耳から話すと、ちとせの部屋から音楽が流れているのが聞こえた。どうやらipodで男性アイドルの音楽を流しているようだった。
「やっほ~」
『うん』
トントンと画面をタッチする音が聞こえるので、他の人のチャットを返しながら受け答えをしているようだ。
「何してたの?」
『ん?』
「ほら、さっきちょっと待ってって言って、通話切ったでしょ?何してたのかなと思って…」
『…へぇ?何??』
口には出さなかったが、思わずずっこけてしまった。どうやらLANEの返信を返すので頭が手一杯だったようだ。
「さっき、通話一回『ちょっと待ってて』って言って切ったのは何かあったの?ってこと!」
『あぁ!学校に電話してた』
「学校??」
『そうそう!施設の!』
「施設?」
学校の施設とはどういうことだ?疑問に思っていると、ちとせがすぐに答えを言ってくれた。
『私さ、元々施設出の出身だからさ…』
「あ、そうなんだ…」
『うん、そう!それで、妹たちに電話してたの!』
「そうだったのか…」
『うん!』
ちとせが施設出身だったとは、知らなかった。俺はなんと返したらよいのかわからずに戸惑ったものの、ちとせの口調からはあまり気にしている様子はなかった。
そして、妹がいることも初めて知った。まだまだちとせのことで分からないことは数多くあることを思い知らされたような気がした。
『ねぇ、にとお兄ちゃんって、どこ住み??』
俺がそんなことを考えているとは知らずに、ちとせがそう質問をしてきた。
「えっ?あ、東京だけど…」
『東京かぁ…遠いなぁ、ちとせ札幌だからなぁ~』
「あ、札幌なんだ!」
『うん!』
ちとせがいますんでいる場所も思えば初めて知った気がした。
『私遠距離とか無理だなぁ…』
その一言が、俺の胸にグサリと突き刺さった。俺のことを恋愛対象として全く見られていない…そう感じ取ることができたから…
『にとお兄ちゃん??にと、お兄ちゃん!』
「…ん?」
すると、ちとせに何度も呼ばれていたようで、俺はボケェっとした返事を返した。
『どしたの?大丈夫?』
「あぁ、うん。大丈夫だ」
『それより!送った写真見て!』
「写真??」
スマホの通知画面を覗き込むと、ちとせから画像を送信しました。と書かれたメッセージが届いていた。俺はちとせとのLANEのトーク画面を開いて、その写真を確認する。
そこに写っていたのは、真ん中に年配の女性をおいて、左右に男女2人ずつがピースをして笑みを浮かべている写真であった。その中には、ちとせの姿もあった。
『一番左、私の元カレの『りょう』』
「えっ?元カレ??」
俺が再び写真に目をやる。一番左に写っていたのは、赤のトレーナーを身にまとった目に髪がかかるほどの長さの黒髪男子であった。どうやら、これがちとせの元カレの『りょう』という人物なのであろう。
「へぇ~結構かっこいいじゃん」
『うん…まあね…』
しかし、彼女の口調は暗かった。あまり思いだしたくない記憶だったのか、それ以上は何も発さなくなってしまった。
「あっ、悪かった。あんまり思いだしたくなかったよな、すまん…」
俺が咄嗟に謝ると、『ううん、平気』といって再びスマホをタップする音が聞こえ始めた。
彼女がなぜ俺に元カレの写真を突然見せてきたのかは分からない。これは、彼女が俺に何か伝えたいことがあるのではないか、何か助けを求めているのではないか…そう感じられずにはいられなかったのだった。
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