第4話 元カノ
今日は午前中から街に出かけることにした。久しぶりに生活用品や服などを見て回りたいと思ったからだ。通勤ラッシュはすでに終わっており、電車内も全員が座れるほどに空いていた。
電車で10分ほど行ったターミナル駅で降りて、改札口を抜ける。ターミナル駅だけあって、地元よりは多くの人がいたものの、ラッシュ時よりは閑散としており、穏やかな昼間の時間がそこには流れていた。
改札口を抜けて、駅前のバスターミナルを挟んだ向かい側にある。ショッピングモールへと足を運んだ。ここならば、何でもお店がそろっているので、色々見て回ることが出来る。
平日の真昼間から買い物をしている人なんて、暇を持て余しているご老人や主婦の人、そして時々平日休みの若い人がいるくらいだ。
僕は服を一通り見て回った後に本屋へと足を運んだ。
文庫コーナーでとある作者の名前が目に止まった。そこに書かれていたのは、以前付き合っていた彼女が好きだった作家さんだった。
僕も何度か元カノに借りて読んだことがあるが、正直自分好みの作品ではなかった。
彼女と本の価値観は全く会わなかった。彼女はホラーや喜劇作品が好きなのだが、僕はどちらかというと恋愛小説やファンタジー小説が好きだったので。そりが合わなかったのだ。そんなことを思い出しつつ、元カノが好きだった作者の文庫本を1冊手に取って開いてみた。内容は、やはり自分が好みとするジャンルではなかったが、俺はスラスラとその本を読んでいく。
読んでいる間に思い出していたのは、彼女との幸せな日々。一緒にお台場デートに行ったり、彼女の家でご飯をごちそうになったり。初めてのキスを交わしたことなど様々な記憶がよみがえってきた。だが、彼女との幸せな日々を壊してしまったのもまた、僕自身だった。
僕は自分に自信がなく、彼女にもっと構ってほしい、頼ってほしいと思いすぎてしまい、いつの間にか束縛をするようになってしまった。
他の男子と話している時も嫉妬心が強く芽生えてしまうようになり、「他の男子と話してたくせに…」と、彼女の前でいつの間にか愚痴を零すようになってしまっていた。
そして、付き合い始めてから1年半が経過した冬。
「別れよう・・・」
彼女から突然言われたことで、俺は奈落の底へ落とされたような気分になった。
それ以降、誰かに頼ってもらわないと、自分の欲求を満たせない。そんな概念にとらわれてしまい、他者依存するように僕はなってしまった。だが、その頼ってくれる人が、他の人に頼み事などをしていると、自分なんて必要ないんだ。という悲観的な気持ちになって落ち込んだ。症状はさらに悪化して、家族などにもすぐに喧嘩を売ったり暴言を吐いたりするようになっていた。
それを見て、見かねた家族が、僕を精神科の病院へと連れて行ったのは、4年前の出来事だった。
そして、診断されたのが、「パーソナリティー障害」所謂コミュニケーション障害の一種だ。
僕はそこからというもの薬漬けの毎日となった。毎日、毎日精神安定剤を飲み続け、高揚した気分と、落ち込んだ気分を繰り返す毎日。本当につらかった。
そこで、僕は趣味を見つけることにしたのだ。今までとは違う、何かを・・・
そこで、はっ!っと我に返った。気が付けば、ほんのページを開いたままぼぉっとしてしまっていたようだ。
本を所定の位置に戻して、スマホをポケットから取り出した。時刻を確認すると、午後の1時を回ったところであった。そして、通知には『LANEからの新着メッセージがあります』と書かれていた。
LANEを起動してメッセージを確認すると、『ちとせ』と書かれたトーク画面に30通近い通知が届いていた。
『おはよう』
『おーい!ねとお兄ちゃん??』
『ツンツン』
『こらー構え!!』
といったように、構ってくださいメッセージがズラズラと並んでいた。
俺はすぐに一言「ごめん、今気が付いた」と、返事を返す。
瞬時に既読が付き、『通話!』とメッセージが返ってきた。
『今外だから、家に帰ってから』
と送ると、『むぅ~』っというセリフの後に、プクっと頬を膨らませた顔文字が返ってきた。
俺はその顔文字を見て、苦笑いを浮かべながら、『今から帰るから、帰ったらすぐに電話かけるね?』と返した。すると、渋々といった感じで、『わかった』っとちとせから返事が返ってきた。
俺はスマホを再びポケットにしまい、駅の方向へ体を向けて、小走りで岐路へとついていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。