第6話 寝起き通話
「おはよ」
「ん~ん…」
朝、いつものように目が覚めて、昨日の夜から繋げっぱなしだった電話越しの彼女へ挨拶を交わす。
彼女は眠そうにウトウトとしながら返事を返してくる。
「まだ、寝てる??」
「うん…」
「わかった、起きたらメッセで教えて?」
「わかった・・・」
そう言って、彼女は再び2度寝についてしまう。
ユミと出会ってから2週間が経過しようとしていた。『ユミ』ではなく、『ちとせ』であると分かってから1週間。さらに、ちとせも同じニートだと分かってからは、お互い時間を気にすることなく毎日のように一日中通話していた。
特に何もすることがなく、お互いにそれぞれのことをしながら時々笑い合ったり、くだらない話をしたりしていた。そんな日々も、僕は嫌いじゃなかった。
僕は、ゆっくりと起き上がって、通話の設定をミュートにする。これで通話を繋げたまま、こちらの作業が出来る。布団をたたんで押し入れにしまい、洗面所へ向かい、歯を磨いて顔を洗う。寝間着から部屋着へと着替えて家の掃除に取り掛かる。
掃除機をかけて、トイレ掃除をして、お風呂の掃除を終えた。
そして、体が完全に訛らないようにとニートになってから始めた筋トレを行う。
腹筋、背筋、腕立て伏せ、体感トレーニング、そしてジョギング。
小一時間ほどトレーニングを終えた後は、すぐにシャワーを浴びて体に染みついた汗を流す。
シャワーから上がった後は、朝食と軽く取り、薬箱に入っている薬を取り出して飲み込む。
ここ最近は、精神的にも安定して、自分で自立した生活が送れるようになってきた。物事も自分で行えるようになってきたし、他者依存することも少なくなった。
こうして月日を重ねていけば、病気も克服できるということであろう。
そして、スマホを置きっぱなしにしていた自室へと戻ると、ミュートにしていたスマホを開く。ミュートを解除すると、モソモソという音が聞こえ、『ん~ん…』と電話越しから眠そうなちとせの声が聞こえてきた。
「おはよう」
『んん・・・』
しばらく返事がなかったものの、何度か布団で寝返りを打っているのだろうか、
布団の擦れる音が大きく聞こえた。そして、ガシャっと彼女がスマホを手に掴む音が聞こえる。
「起きた??」
『んん・・・眠い』
「そかそか」
僕がもう一度声を掛けると、ようやく返事を返してくれた。時刻はもうすぐ正午を回ろうとしていた。全く、どれだけ朝が弱いんだか…
それからは、特に会話をすることなくポチポチと彼女がスマホで友達にLANEの返事を返している音だけが聞こえた。
しばらくして、全員に返信を終えたのか、音がなくなった。
『んん~!!』
彼女は体をほぐすように大きく伸びをしているようだ。
『ちょっとトイレ』
そして、そう一言告げると、トコトコと歩いていく音が聞こえた。
「はいよ」
僕はそんな彼女の自由気ままさに、苦笑しながらそう答えることしかできないのだった。だが、そんな日々も嫌いじゃない。そう思っている自分もいるのだった。
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