第7話 お昼ご飯

寝起き通話からしばらくして、いつものようにお昼ご飯を食べながら通話を続けていた。

彼女はアイフォンで音楽を流しながら美味しそうに昼食を楽しんでいる様子であった。俺も同じように、カップラーメンにお湯を注いで出来上がるのを待っていた。


『ねぇ、にとお兄ちゃん』


すると、食事に夢中だったちとせが電話越しに話しかけてきた。


「ん、何?」

『後で一緒にお買い物行こう~』


ん?一緒にお買い物??どういうことだろう?

一瞬どこかで待ち合わせをして一緒に買い物をしようと誘ってきたのかと勘違いしそうになったが、そんなことはあるはずがない。すぐに通話しながら買い物に付き合うことだと理解した俺は、優しい口調で返答を返す。


「うん、わかった。いいよ!どこに買い物に行くの?」

『ケープ!』


ちとせは元気よく行き先を教えてくれた。ケープとは、大手の小売りスーパーであり、ネット注文配達も行っているスーパーである。


「日用品買いに行くの??」

『うん!トイレットペーパーと、あとコーラ!!』

「本当にコーラ好きだよな…」

『うん、だってね?ちとせ、前彼氏の家に住んでた時、コーラ箱買いしてもらってたんだ』

「すげぇな…」


ちとせは、普通の水やお茶を嫌い、基本炭酸飲料しか飲まないことが多いそうだ。まあ、健康的にはあまりよろしくないが、どうしてもお水がまずくて飲めないのであるならば仕方ないのであろう。


「それで?何時ごろから買い物行くの?」

『う~んとね…14時になったら行く』


俺は部屋にかかっている時計を確認した。時刻は昼の12時30分を指していた。あと1時間30分ほどあるので、余裕をもって出かけるみたいだ。


「おっけい、分かった!」


そう答えた直後、カップラーメンが完成したことを告げるタイマーの音が部屋に鳴り響いた。

俺は耳元に近づけていた電話を肩で抑えて、タイマーを止めた。


『にとお兄ちゃん何作ってるの??』

「ん?カップラーメン」

『あーね』


スマホを手に取って、スピーカーモードにして机に置いた。そして、カップラーメンの蓋を開けて、仕上げの液体ソースを加えて、端でかき混ぜる。

色が醤油色に変化し、おいしそうなラーメンの匂いが漂ってきた。


「いただきます」


俺が手を合わせて一気にラーメンを啜る。


細麺の柔らかい面に濃厚なスープが絡み合い、とても美味だった。


『私、ラーメンって啜れないんだよね』


すると、俺の食事の様子を聞いていたちとせが急にボソっと言ってきた。


「へ?どういうこと?啜れないってこと??」


俺が聞き返すと、『うん』と返答が返ってきた。確かに、外国人などは麺を啜る習慣がないので出来ない人というのは聞いたことがあるが、日本人で麺を啜ることが出来ない人は珍しいと思った。


『音は出るんだけど、啜れないんだよね』

「それは、啜る力が弱いとか?」

『う~ん、どうなんだろう??わかんないや』


ちとせは、アハハと苦笑しながらヘラっと答えた。どうやら本当に麺を啜ることが出来ないようだ。


「まあ、啜れなくても、別に生活に支障はねぇから問題ないだろ」

『確かに笑』


ちとせが全く落ち込んでいないのを確認してから、俺はもう一度ラーメンをズズッっと啜って口に掻き込んだのだった。

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