第8話 出発準備

 お互いにお昼ご飯を食べ終えて、買い物へ出かけるためちとせは準備を始めていた。


『お金持って、バックにこれを入れて・・・』


 あれやこれやと持っていくものを確認していた。俺は、その間特にやることもなかったので、スマホゲームをポチポチと操作しながら暇を持て余していた。


『にとお兄ちゃん、トーク見て!』


 すると、ちとせから電話越しにそう言われたので、バックグラウンドに残してあったLANEを開いてちとせとのトーク画面を開いた。画面を開くと、1枚の画像が送られてきていた。それは、いくつかの髪留めが机に並べられている画像だった。


「ん?髪留めが、どうしたの?」

『にとお兄ちゃんが好きなの選んで!』


 どうやらちとせは、俺に髪留めを選んでほしいようだ。


「う~ん・・・」


 俺はその髪留めを眺めて、どれがちとせに似合うか思案する。頭の中で、ちとせにもらった本人の画像を思い出しながらどれがいいか考えた。そして、俺は画像の一番右端にあるシルバーのバラが付いた髪留めが一番似合っていると思った。


「右端のシルバーの花がついてるやつがいいと思う」

『ふ~ん』


 俺が率直に答えた意見に対して、ちとせはどこか意味ありげな声を上げた。


『それじゃあ、シルバーの奴はやめとこ~っと』

「おいこら」

『えへへへ』


 折角選んでやったっていうのに、あえて外すとは…ちとせ、怖い女の子。


『じゃあ、他の中から選んで?』

「う~ん、それじゃあ・・・」


 恐らく、また選んだ奴を外すのだろうと予想した俺は、今度はあえて一番自分好みじゃない髪留めを選ぶことにした。画像をもう一度じっくりと見て、今度は左下にあるゴールドの髪留めを選ぶことにした。


「左下のゴールドの奴がいいかな」

『う~ん、これかぁ…』


 ほら、早く『これじゃないのにしよっと』っていうんだ!俺は心の中でちとせの思考を読むかのように次の言葉を予想して待っていた。


『じゃあ、これにしよっと!』

「へ!?」


 予想外の展開に、間抜けな声が出てしまった。


『ん?どうしたの?』

「いや、それにするんだと思って…」

『うん!だって、にとお兄ちゃんが選んでくれたし…えへへ///』


 そんな嬉しそうに言われたら、一番似合わないかなぁ…と思った奴から選んだなんて言えねぇじゃねーか


「というか、最初っから選んだやつを付けてくれよ」

『えへへ…///ちょっとにとお兄ちゃんをいじめてみました』


 からかうようにそういう彼女を、可愛いと心の底から思ってしまっている自分に対して呆れつつ、まあ喜んでくれているならいっか。という気持ちにさせられた。


『よっこいしょ!・・・それじゃあ、買い物に行ってきます!』

「行ってらっしゃーい」

『イヤホン付けるね!』


 ガラガラっと何かがスマホに当たる声が聞こえてしばらくして、再びちとせの声が聞こえてきた。


『よしっ、おっけー。それじゃあ出発!』

「おう!」


 家の玄関で靴を履いて、『あっ、電気けしてないや・・・』などと独り言をつぶやきながらも、ガチャっとカギを開けて玄関のドアを開けて外に出たちとせは、ガチャリとカギを閉めて、買い物へと出発したのであった。



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