第2話 先輩

 立花妃花たちばなひめかは、県立水辺高校の二学年でありオカルト部に所属している。

 幽霊部員の多いオカルト部の中で、比較的まともに部活に参加している数少ないメンバーの一人でもある。

 成績優秀、スポーツ万能、そして容姿端麗まで付く完璧超人の先輩ではあるが、問題点は無くもない。

 むしろ問題点が大きすぎて、前出の完璧超人振りが霞むほどだ。


 まず登場時の恰好を見ていただければ一目瞭然、ファッションセンスが大幅に外れている。基本的に学校に居る間は学校指定のワイシャツの上に赤いジャージと、スカートの下に赤いジャージ姿で過ごしている。ちなみに学校指定のジャージは全て紺色であり、現状は三本線がそれぞれ一学年が白、二学年が赤、三学年が緑となっている。つまり赤いジャージは完全な私物であり、学校指定でも何でもないのである。

 校則的にも風土的にも大らかな学校ではあるが、流石に全く関係ない色合いのジャージを着ていても文句を言われないのは、一年の頃から常に学年トップの成績を走り続け、人柄的にも憎めない性格と、その愛らしい容貌故だろう。


 破天荒な性格で、猪突猛進、人の話を聞かず、唯我独尊、彼女の問題点を上げればキリがないが、最大の問題点は超が付くほどのオカルトマニアであるという事だろう。

 オカルトのためなら学校を休むことを厭わず、北は北海道から南は沖縄までありとあらゆる所まで出掛けていく。昼夜が逆転し、授業中に爆睡を決め込むことも日常茶飯事、それでも成績が一切落ちないのは彼女の地頭が良いせいなのだろうか。

 もちろんそれ関連のネットワークも広く持ち、ホラー作家から、オカルトライター、市井のオカルトマニア、果ては民俗学の大学教授まで、その有効範囲は広がっている。高校卒業後は世界中のオカルトを見に行くと公言してはばからず、最終的な夢は映画ゴーストバスターズのようなオカルトを退治する専門の会社を作ることだそうだ。

 どこまでが本気だかわからない彼女だが、それを最終的に成し遂げてしまいそうと思わせる何かが彼女にはあった。


 しかしオカルトだけに傾倒しているかと言えばそうでもない。その性格から友人も多く、常に明るく周りに頼りにされるような存在であった。

 最終的についたあだ名は残念美人のオカルト馬鹿で有ることからも彼女の性格が読み取れるかもしれない。



「お待たせ諸君! さあ、オカルトを語り合おう!」


 そんな残念美人がオカルト部の部室に久しぶりにやってきた。

 調査だ、と言って何日も学校に来ないこともあり、放課後もなんだかんだ忙しく動き回っている妃花はオカルトマニアと言いつつあまり放課後にオカルト部の部室に顔を出すことが少ない。基本的に部員とはスマホのメッセージを通してやり取りをすることが多い。


「妃花先輩、押しさしぶりでーす」


 いつの間に座ってたテーブルから立ち上がったのか、澪が妃花に向かってダッシュで抱き着く。


「うーん、愛い奴、愛い奴、澪は相変わらず可愛いのぅ」


 酔っぱらったおっさんが如く顔を弛緩させながら妃花が抱き着いてきた澪の頭を撫でる。

 彼女の問題点の一つに女好きを追加する必要があった。


「お久しぶりです、二週間ぶりですかね?」

「立花先輩、メッセージ振りですー」


 残りの二人もそれぞれ挨拶を返す。

 すでに妃花の奇行には慣れっこになっていた。


「おっす、お久しぶり。元気にオカルトしてるか?」

「オカルトをすると言う表現がよくわかりませんが、まあ部活にはきちんと出ていますよ」


 良いことだとでも言いたげな笑顔で微笑むと、部室を横切り一番奥の席に着く。そこが妃花のお気に入りの席だった。


「先輩こそ、唐突に部活に来るなんてどうしたんですか? この前まで調査だ何だと言ってましたが」

「ん、ああ。そろそろかなと思ってね」

「そろそろ?」


 妃花の含みある言葉に訝し気に聞き返す一夜。


「ん、いや何でもない。丁度調査も終わったし、たまには後輩の顔を見るのもいいことだろ?」

「そうだよ! 妃花先輩が来てくれるだけで満足しなさいよ! この二週間こんなアホな野郎二人に囲まれて私もうどうにかなりそうでしたよー」


 割と酷いことを平気な顔してのたまう澪に呆れ顔を見せながら、


「いや、そう思うなら来なければいいだろう」


 とミロクが突っ込みを入れる。


「そんな、私が部活に出ていない時に妃花先輩が来たらどうするつもりよ、責任取ってくれるの?」


 妃花の隣にちゃっかり腰掛け澪が膨れる。


「なんの責任だよ、相変わらず何も考えずにしゃべる奴だな」

「いーーーーだ」


 ご丁寧に口の橋を指で引っ張り顔をミロクの方へ突き出し不満を表す。


「ところで一夜、先輩に用が有ったんじゃなかったのか」

「おう、そうだった」


 ぼんやりと妃花の方を向いて考え事をしていた一夜へミロクが話を振る。


「どうした。オカルトの事か?」

「あー、妃花先輩気を付けてくださいね、こいつの話を聞くと太ももを視姦されますよ!」

「太もも? 視姦?」


 意味が分からずニコニコとしながら不思議そうに首をかしげる。


「澪、変な話を吹き込むな」

 

 一応澪に釘を刺し、先ほど三人で話していた七不思議の話をする。

 学校の七不思議の場所の話、そしてこの旧校舎に七不思議が存在しないこと、それと合わせて旧校舎を実際に使用していた頃の会報が棚に見当たらないことも付け足した。


「なるほど、それでオカルト少女の私に話を聞きたいと」

「なに愛称勝手に増やしてんですか。ちょっと前まではオカルトマスターじゃなかったでしたっけ? ちょっと可愛い寄りに振ってきてるし」


 ミロクの突っ込みにちょっと照れながら妃花が一夜の疑問に答えてくれる。

 破天荒で傍若無人な彼女も実は照れ屋な一面があったりする。


「良いじゃないか、私が付けるんじゃなくて周りが勝手に付けてくるんだぞ」

「でもその中から選んでるのは先輩ですよね?」

「くー、君の突っ込みは冷静すぎて心に痛いな!」

「ちょっと妃花先輩をいじめないでよ!」

「澪、お前が入るとめんどくさいから大人しくしてろ」


 そういって一夜が澪にポッキーの箱を渡す。


「そんなことより七不思議だ!」


 バンっとテーブルをたたき妃花が話を戻す。


「一夜君、君は良いところに気が付いたな。もちろんこの旧校舎にも七不思議はあるぞ」

「それではなぜ其れが文書としても口伝としても残されていないんです?」


 一夜が疑問を口にすると、妃花がチッチッチと妙に芝居かかった様子で人差し指を口の前で左右に振る。


「文書としても口伝としても残されていないは正しくない。なぜなら! 文書としてもオカルト部の会報に記載されているし、口伝に至っては私とそれに何人かオカルト部の二年以上なら知っている」


 妃花がない胸を張りながらドヤ顔で話す。


「しかし、ここにある会報にはどこにもそんな記載ありませんでしたよ?」

「それはそうだ。隠してるからな」

「隠してる?」

「ああ、ちょっとやそっとじゃ見つからない場所に隠してある」

「それじゃ、初期の頃の会報と、途中少し抜けていた奴は、無くなったわけじゃなくて意図的に外していたと?」

「その通り」


 なぜか偉そうに答える妃花。


「しかし、口伝でも出てこないのは納得できないですね。人の口に戸は立てられぬ、どうしてもその手の話ってのは漏れてしまうんじゃないですか?」

「その通り、どうしても出てしまう噂はある」

「それじゃぁ」

「しかし、それは書き換えるんだ」

「書き換える、とは?」


 意味が分からないと言うように一夜が尋ねる。

 先ほどから黙っているが、ミロクも澪も興味深そうに二人の話をポッキーを食べながら聞いている。

 ちなみに澪のポッキーの食べ方は独特で、カリカリカリとハムスターのように少しずつ齧っていくスタイルだ。


「何簡単なことだよ、旧校舎に関しての七不思議の噂が出たときは、こちらも同じ噂を流すんだよ、微妙に改変して」

「微妙に改変…、なるほど」

「わかったかい?」

「何々、二人で分かった風に頷きあわないでよ!」


 澪が嫉妬のためか頬を膨らませながら抗議する。

 もしかしたら頬袋にポッキーが詰まっているのかもしれない、が。


「つまりだ」


 一夜が自分の考えが正しいかを確認するために話始める。


「旧校舎の七不思議がどこかで語られたとする。しかし理由はわからないが旧校舎での七不思議は都合が悪い。そのため、その旧校舎の七不思議の場所だけ変更して上書きするような噂を流すんだ」


 ミロクは何となく分かったらしいが、澪は良く分からないというぽかんとした顔をしている。

 確認のためミロクが後を継ぐ。


「つまりこう言うことだね。例えば、『旧校舎』の屋上を転がっている生首の七不思議が噂され始めたら、その場所を新校舎に変更して『新校舎』の屋上を転がっている生首として噂を立て直す。そしてそれが浸透するまで言い続けるわけだ」

「そうだな。それに噂を確実にするために良い装置がある」

「装置?」


 そう言うと一夜は妃花の顔を再度見つめる。

 にっこりと笑う妃花を見て確信を強めた一夜は自分の考えを披露した。


「オカルト部の会報だよ。旧校舎と新校舎で場所だけが違う同じ内容の七不思議が噂されているとして、それを確定させるだけの権威をもったものとして、オカルト部の会報は最高の装置なんじゃないだろうか?」


 つまり、旧校舎、新校舎二つの場所で同じ七不思議が噂として流布している。しかしオカルト部は新校舎の七不思議として扱い会報に書く。いくら怪しげな部活とはいえ、オカルトの名を冠した部活が公式? の会報に書くのだ。流れはそっちの方向に向かうのも道理だろう。


「だから何度も七不思議が変更されて行ってるんですね」

「まあ、そういうことだ」


 妃花がお手上げだと言った形で、ちょっとオーバージェスチャ気味に両手を上げる。


「ところで旧校舎の七不思議だがな、まあ会報を見てもらうのが一番いっか」


 そう言って妃花は付いてこいと言い立ち上がると、部室を出ていった。

 その背中を慌てて追いかける三人が教室を出ると、妃花は部室の隣の部屋の前に立っていた。


「ここだ」

「ここですか? ただの物置ですよね」

「灯台下暗しってやつだ」


 と言いながら扉を開けて中に入る。


「私、一応ここを簡単にですが見てみましたけど、それらしいモノは有りませんでしたよ?」


 一夜が後に続きながら中に入る。


「そりゃそうだ。分かるように置いてあったら意味がない」


 物置として使われている教室に電気をつけると中は狭い空間だった。左右に雑多な物が置かれた棚が張り出し、間は二人の人間が向かい合ってやっと通り抜けられる幅しかない。設計を間違えたのかと言うような微妙な広さの空間で、物置にするくらいしか用途は無いだろう、そんな部屋だった。

 

「うわっ、狭い」


 澪が入り口から顔を覗かせ中を見る。二人は居る一杯いっぱいなため、ミロクも中に入らず入り口から中を覗いている。


「それで寄り分けられた会報はどこにあるんですか?」

「そう急かすな。ほらそこだ」


 そう言って物置の一番奥の空間に有る段ボールを指さす。棚の一番上に置かれたそれには、梅抜私物開封厳禁とマジックで殴り書きされている。梅抜とは、恐らく現国教師の梅抜青梅うめぬきおうめの事だろう。


「梅抜先生の私物箱、ですか?」

「ダミーだよ。勝手に名前を借りたが、ここの生徒なら梅抜先生の私物を開けようとは思わないだろ?」

「確かに、独特の不気味さが有りますよね、あの先生」

「開けたら呪われそう」


 梅抜先生に対して酷い良い様だったが仕方が無い事であった。喪服かと言うような全身黒ずくめの恰好で毎日出勤し、目元を覆う前髪、ぼそぼそとした話し声、付いたあだ名が暗黒先生だ。

 確かに興味半分でこの箱を開けようと思う猛者はなかなかいないだろう。


「しかし、場所が高すぎて届きませんね。椅子に乗っても微妙かな。脚立とか持ってきますか?」

「脚立かー、どこにあるか知ってる?」

「さあ」

「知らないですね」

「しらなーい」


 誰も知らなかった。


「仕方ない、肩車しようか。私が上に乗るから、一夜君下になってくれるか?」


 妃花の言葉に頷くと、一夜は屈んで妃花を乗せる体制を取る。

 と、そこで横やりが入った。


「だめだめー! 駄目ですよ妃花先輩! 一夜を下にしたら、先輩の太ももが穢されちゃいますよ」


 澪が慌てて室内に飛び込んでき妃花を止めに掛かる。


「コイツきっと妃花先輩を肩車したら太ももを撫でまわして、変態チックにうへうへする気ですよ。そんな変態的な提案到底許容できません!」

「いや、先輩の提案なんだが…」


 うーと唸り声をあげて威嚇する澪に対して、ほとほとうんざりした様にため息を吐く一夜。


「そうなんだ。一夜君私の太ももに興味があるんだ」

「まあ、無いと言ったら嘘になりますね。隠された中に財宝があるかもしれませんし」

「ふっふーん、そうかそうか。それじゃぁまだご褒美はお預けにしないとかなぁ」


 そんな中、妃花は何やら優越感に浸ったような顔で一夜を見る。


「ちょっと先輩、そんな駄目ですよ、ご褒美なんて。私もまだ貰っていないのに!」


 物置内でぐだぐだやっていると、すでに飽きてきたのか入り口にいたミロクが中に声を掛ける。


「ねー、それでどうするの? 立花先輩を肩車するのが禁止なら、澪が上に乗るか、一夜を澪が担ぐかしか選択肢無いけど?」

「え、何言ってるのミロク」

「ちなみに僕は嫌だよ。体力無いし、重い物とか持ちたくないし」


 それだけ言うとさっさと部室に戻ってしまう。


「と、言うわけで、選択肢が狭まったわけだが」


 一夜が澪の方を見て決断を則す。


「よしっ、澪ちゃん肩車されよう!」


 妃花が追い打ちをかける。


「もー、何でこうなるのよー。キモイー」


 澪が泣きそうになりながら叫んだ。



 *


「ちょ、ちょっと上とか向かないでよね」


 恥ずかし気に俯きながら、仁王立ちの様に脚を広げて待つ澪に向かって、一夜が後ろから屈みその脚の間に頭を通す。今上を見ると澪のパンツが見えてしまう、それを危惧しての言葉だった。


「見ないみない。太もも以外に興味無いから安心しろ」

「それはそれで悔しいというかなんというか…」


 ぶつぶつと何事かを言う澪を無視して頭を突っ込むと、そのまま持ち上げる。


「ちょっと、いきなり立ち上がらないでよ」


 突然の事に慌てた澪は、両脚に力を入れ一夜の頭をぎゅっと挟み込みバランスを取る。


「ぬおっ」


 予想外の太ももの圧に驚きバランスを崩しそうになる。そのふらつきが余計上部の澪の動揺を呼び、さらに圧が強まった。

 がっしりとホールドされた顔は動かすことができず、太ももの弾力により顔全体が締め付けられる痛みが一夜を襲う。

 太ももに殺されるなら本望だが、それでも苦しいものは苦しい。


「ちょ、と、と。ふとももしめふぎ、ちょっとゆるめろ」

「喋るなし。くすぐったい。揺れる、怖い」


 澪はそんな一夜に構わず目を閉じ一夜の髪の毛を掴みながら上部で暴れる。

 そんな中、何とか踏ん張り体勢を立て直す事に成功するが、それに気が付いていないのか澪の太ももの圧はおさまらない。

 しょうがないので、棚に捕まり支えた手を澪の太ももに置くと、力を入れて左右に割る。


「なに、なにー。なんか触ってる、なんか触ってる、キモイー」

「ぶはっ、少し落ち着け」

「やだやだやだ、怖い怖い怖い」


 未だに脚を締めて圧を強めようとする澪の太ももは体温が低く、冷たい肌触りで気持ちが良かった。

 思わず添えるだけのつもりの手がさわさわと動いてしまうのは本能に従った結果なので仕方がない。

 一夜はそう思い、苦しい中でも十分に澪の太ももを堪能する。。


一方、二人の肩車の様子を見ながらケラケラと笑っていた妃花がだったが流石にこれ以上は危ないと澪に声を掛ける。


「澪ちゃん、落ち着いて。もう大丈夫だから」

「えっ、えっ」


 涙目になりながらもうっすらと目を開けると、目の前に棚の最上部が見える。

 そんな澪の背中を妃花はポンポンと叩き落ち着かせる。


「落ち着いた?」

「あ、大丈夫です。ごめんなさい」

「いや、窒息するかと思ったぞ。勘弁してくれ」


 落ち着きを取り戻した澪に向かって悪態をつく。


「うっさいわね、いきなりで怖かったんだからしょうがないでしょ。ちょっと、太もも触らないでよ、キモイ」

「バランスを取るためだ、諦めろ」

「動くな、髪がさわさわしてくすぐったい」

「注文が多い奴だな」


 ため息を吐きながらバランスを取る。


「あ、それから後ろ振り向かないでよね。ぱ、パンツ見えちゃうから」

「分かったわかった。いいから早く上の段ボールを取れ」


 ふくれっ面のまま一夜の頭を軽くポカポカ叩くと気が済んだのか、澪は棚の上の段ボールに手を掛ける。


「結構重いと思うから気を付けてねー」

「かるっ!」


 相反する内容が交錯する。

 会報が詰まってると想像していた面々、紙の束は当然のごとく重い。

 誰しもそんな想像をしていたが、その予想に反して実際の箱の中は軽かった。


 重いつもりで持ちあげた澪は当然のごとくバランスを崩してそのまま一夜の肩車から落ちそうになる。


「危ない!」


 妃花、一夜二人の声が重なる。妃花は後ろから、一夜はうまく体を捻らし正面から澪を抱きとめる。

 必然、二人に挟まれるように抱きしめられる。


「ひゃ、あ、あ、あ」


 軽い段ボールを頭に抱えたまま動きが止まる。

 澪の背後から妃花の柔らかい身体と、正面からの一夜の多少は男らしい身体に挟まれ澪の頭はショートした。


「ふぅ、危ない。大丈夫か、澪」


 そう言いながら、一夜は澪から身体を話し頭上の段ボールを受け取る。


「うぉ、こりゃ軽いな。先輩、これ何も入ってなさそうですよ」

「えー、ほんとに? おっかしいな。前はそこに入れて置いたんだけどなぁ」


 首を捻りながら、澪から身体を離しポンポンと彼女の頭を撫でる。


「まあ、部室で開けてみよう」

「そうですね。振っても音がしないんで何も入ってなさそうですけど」

「いやいや、もしかしたら怪盗からの予告状とか入ってるかもしれない」

「盗んだ後に予告状とか、詐欺じゃないですか」


 くだらない事を言い合いながら、部室へ戻る二人。


「あぅ、あぅ、あぅ…」


 物置には顔をゆでだこの様に真っ赤にした澪だけが残された。



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