ふとももでオカルトは駆逐できるはず!
大鴉八咫
太ももと七不思議とオカルトと
第1話 部室
はじめに神は天と地とふとももを創造された。
地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおって、ふとももがそこにいた。
神は「光あれ」と言われた。するとふとものの間に光があった。
神はそのふとももの間の光を見て、良しとされた。神はその光とやみとふとももを分けられた。
神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた、ふとももはふとももだった。夕となり、また朝となった。ふとももの第一日である。
神はまた言われた、「水の間におおぞらがあって、水と水とを分けよ、ふとももの間に水をたくわえよ」。そのようになった。
神はおおぞらを造って、おおぞらの下の水とおおぞらの上の水とを分けられた、ふとももの間の水は活力となった。
神はそのおおぞらを天と名づけられた、ふとももはふとももだった。夕となり、また朝となった。ふとももの第二日である。
*
「キモイ」
開口一番、
彼女は侮蔑の表情をし、一夜を見下している。
「なぜだ、これは旧約聖書『創世記』に語られる天地創造の一節だぞ」
一夜は信じられないと言う顔を澪に向ける。
しかし澪はそんな一夜を一蹴、
「むやみやたらに太ももを付け足すな」
とすげない対応。
「ちなみに私は『神は「光あれ」と言われた。するとふとものの間に光があった。』の部分が最強の表現だと思っている。太ももの間に産まれた光だ、さぞ素晴らしい光だろう」
「いや、むしろ最低の表現だろ、関係各所から怒られるぞ」
窓際でぼんやりと本を読んでいた、
「馬鹿な。貴様同志では無かったのか、ミロクよ」
「確かに女性の綺麗な足は好きだが、お前みたいに太もも一点突破な感じでの偏執的な執着はねえよ」
ミロクにまでも見下したような侮蔑の顔で見られて一夜はますます信じられないと言った表情を見せた。
「ちなみに一夜はどこまでの太ももが好きなの?」
「どこまで、とは?」
そうね、と一瞬考え込むような表情を見せた澪だが、改めて考え始めるとなんだか馬鹿らしく思えてきたので投げやりに答える。
「何処まででもいいわよ、男性の太ももでも良いの?」
「良く分からん奴だな。美しい太ももであれば私は何でもウェルカムだ。もちろん男性でも程よく柔らかそうで美しい太ももであれば問題ない。しかし、基本的に男性の太ももは筋肉質だからな、ちょっと筋肉質すぎるのは私の興味は薄い。男の娘であればふわふわの太ももだろうから問題は全くない」
キリっとした眼差しで言い切った一夜を見、二人はなんだこいつみたいな呆れた表情を取る。
「ちなみに薄すぎるのも、厚すぎるのも、ちょっと好みからは外れる。なかなかドンピシャな太ももに出会う事は難しいな」
一夜の表現にピクリと表情を揺らす。
「なに、太ももって薄い、厚いって表現するの?」
「ん、何を当たり前な。私は薄い太もも、厚い太もも、といつも言っているが?」
当たり前のことを聞かれてきょとんとした顔を浮かべる一夜。
「いやいや、太ももは細い、太いじゃね?」
「いや、私もそう思うけど」
「そうなのか! 今まで薄い、厚いと表現していたわ」
「そんな、とんかつ用のロース肉じゃないんだから…」
何がウケたのか澪が「と、とんかつ」と言いながら大笑いしている。
そんな彼らが居るのは県立水辺高校の敷地内に存在する、いつ解体されてもおかしくないようなおんぼろ旧校舎の一室、オカルト部の部室の中だった。
オカルトを部活として活動している、と書くと意味が分からないが、結局のところ何か具体的な活動がある部活と言うわけでは無い。もともとは少人数のオカルトサークルとして誕生し、そこの頃は昭和のオカルトブームの真っ最中。比較的真面目にオカルトについて研究したり、実際にオカルト現場に向かったり、オカルト関連の同人誌を発行したりとそれなりに活動はしていた。
しかしオカルトブームは下火になり、サークル活動を真面目にしている人間も少なくなる。
本来であればそのままサークルを維持できる人数が居なくなり自然消滅する運命だったオカルトサークルだが、ここからがオカルトサークルのオカルトたる所以、結局のところオカルトサークルは生き残った。
まずなぜかサークル参加人数が増えた。増えた結果オカルトサークルは部に昇格した。特に成績などは関係なく、人数がいれば部に昇格できると言う校則の結果だった。
部に昇格した結果、オカルト部に部室ができた。しかし通常の文化部の部室が集まる部室棟は既に一杯、場所がないため取り壊しが決まりそうで決まらない旧校舎に部室ができた。他に利用者がいない旧校舎の夕方から夜はまさにオカルト部にふさわしい雰囲気である。
そして増えた人数のほとんどは部活動などには参加しない幽霊部員である。まさにオカルトである。
この学校のオカルトを凝縮したような存在、それがオカルト部であった。
「ところで今日も参加者は三人だけなのかしら?」
澪が爪の形を整えながらつぶやく。部室内は、澪、一夜、ミロクの三人しか居ない。
基本的にオカルト部として参加するメンバーはこの三人プラスαといったところだった。
「後で行くかもって立花先輩がメッセージくれたけど、まだ来ないね」
小説のページをめくりながらミロクが答える。基本的に彼が読んでいる本はホラー小説だ。もしかしたらこの中で真の意味でオカルト好きと言ったら彼かもしれない。
「うっそ、私のとこメッセージ着てないんだけど!」
澪はスマホを取り出しメッセージを確認する。
「え、何。ミロクってば妃花先輩と直接メッセージやり合ってるの? 私でさえ部活のグループでしか登録できてないのに」
「違う違う。学校内の本読み達集めて読書グループっての作ってるのよ。そこで話題に出た」
そう言うとスマホの画面を澪に見せる。
「なんでそこで妃花先輩が部室に来るって言うのよ。普通にオカルト部のグループに発信すれば良くない?」
自分が会話に参加できなかったからか、ご立腹の様子。
それもそのはず、澪は上級生であり、部活の先輩でもある
「知らねーよ。グループの会話の中でオカルトの話になったから、その流れで先輩が今日部室行くよって言ったんだよ」
心底めんどくさそうにミロクが答える。
「くっそ、私も読書グループ入ろうかな」
「いや、澪は本読まないだろう。グループ入っても孤立するだけだぞ」
「うっさいな、文字読むと眠くなんのよ。しょうがないでしょ」
やれやれと言った風に諦めてミロクは読書を再開する。
「なんだ、立花先輩来るのか。丁度いい」
今まで太い細いとぶつぶつと唸っていた一夜が顔を上げる。
「やだ、なにあんた。もしかして妃花先輩の太ももも狙うつもり」
「なんの話か知らんが、先輩はいつもジャージを履いていて太ももを見せてくれないから興味ない」
立花妃花は基本的にいつもスカートの下にジャージを履いているちょっと奇妙な先輩だった。だからと言って特にスポーツをやる様な感じでは無く、きちんとした服装をすれば深窓の令嬢と言われても納得してしまうような美しさがあった。
「先輩に対して興味ないって何よ! あんた喧嘩売ってんの」
「興味を持っても、持たなくても怒られるって、私はどうすればいいんだ」
「適当に往なしてればいいんだよ、こいつの言う事なんて。澪も良く考えてから話せ」
一夜の言葉に対して何がトリガーか分からない怒り方をする澪。
それを聞きミロクが二人をなだめる。
大体いつも三人が集まるとこんな感じで会話が行われていた。
一夜が真面目に意味不明な事を言い、
澪がそれに反応し激高し、
ミロクが何となくとりなす。
「そう言っても、コイツがアホな事言うから…。あっ」
澪が何か気が付いたように声を上げる。
「もしかして、私の太もも狙われてる? いつもアンタの前でスカート姿で足組んでいたりしたし…、やだ、きも」
「何を当たり前な事を。私は澪の太ももは大の好みだぞ。もちもちした柔軟さ、すべすべした質感、そして抱きしめたくなる様な丁度良い太さ。どれをとっても一級品だ、誇ってよいぞ」
「え、あ、うん。ありがとう…」
真剣な様子の一夜の言葉に、照れる澪。
「予想外にド直球で返されて照れるなよ。ツンデレか」
「ツ、ツンデレ違うわよ、キモイ、キモイ、あーキモイ」
ミロクの突っ込みに、顔を真っ赤にして否定する澪。
ミロクにとっては揶揄いがいのある同級生である。
「あまりキモイキモイ言われると、流石に私もへこむぞ」
「き、キモイんだからしょうがないじゃない」
真っ赤な顔のままぷいっとそっぽを向く。
「ところで一夜は立花先輩になんの用事があるんだ?」
「ああ、そうそう。実はちょっと聞きたい事が有ったんだよ」
「聞きたい事?」
読んでた本を閉じて興味深そうにミロクが顔を上げる。
澪もぱたぱたと手で仰いで赤い顔を冷やしながら、興味津々に耳を傾ける。
「いや実は七不思議に関して聞きたかったんだ」
「七不思議ってあれか、学校の七不思議ってやつか」
「そうそう、それだ。この学校の七不思議をちょっと調べててな」
「なによ、オカルト的な感じの話なの。そんな事妃花先輩に聞くつもり?」
「いや、ここはオカルト部だぞ。オカルト以外に何を聞くと言うんだ」
一夜は何を当たり前の事をと思いながら澪を冷めた目で見やる。
「話を戻すぞ。ちなみにお前らこの学校の七不思議知ってるか?」
「知らない!」
オカルト部部員には有るまじき勢いで澪が答える。
ため息を吐きながミロクが指を折り、一つづつ知っている七不思議を答えていく。
「笑う音楽室のベートーベン。女生徒の消える渡り廊下。増える十三階段。吐血する美術室のブルータス。あとなんだっけか」
やれやれと言った表情で続きを一夜が引き継ぐ。
「彷徨う創立者銅像。体育館で踊る影。悪臭漂う理科室。が代表的なモノだな」
「なんか変なのが多いね。悪臭って何、笑う」
「変なのというと、もっと笑えるものもあるぞ」
そう言うと一夜は目を閉じ思い出すように他の七不思議をそらんじ始めた。
「屋上を転がる生首。永遠に端が来ない廊下。開かない教室、入ると死ぬ。血が湧き出る優勝カップ。深夜の殺人料理人。などなど」
指折り数えて十三個となったところで一夜は目を開く。
「ちょっと待って、七不思議でしょ? なんでそんなに一杯あるのよ」
「七不思議なんてそんなもんだ。時代や人、状況などによって不思議の内容もどんどん変わる。この学校でも色々な七不思議が生まれては消えていった」
「なんでそんな事知ってるのよ」
一夜は立ち上がると、部室の奥へ歩いて行き棚から何かを取り出す。
戻って来ると二人に棚から持ってきた小冊子を渡す。
「何これ?」
「オカルト部の会報だ」
「えっ、この部活そんなの出してたの?」
「へー、初めて見た」
驚く二人に呆れた様に声を掛ける。
「お前ら何しに部活に来てるんだ」
「妃花先輩に会うためー」
「本を読むのに静かな空間が欲しかった」
「お前らな…」
オカルトとは関係ない答えにため息を吐く。
「このオカルト部は代々文化祭に会報を作って配っているみたいだな。記事内容は年代ごとにばらばらで、ホラー小説まがいの短編小説を書いているモノや、オカルト文化論の様な評論めいたもの、オカルトブームの頃は心霊写真特集をやってみたりと色々だ。そして巻末に必ずこの学校の七不思議を解説したページが存在するんだ」
「へー、同人誌みたくきちんと印刷会社つかって印刷してるんだね。そこそこお金かけて作ってそうだ」
ペラペラと中身を流し読みしながらミロクが感嘆する。
どの会報にも『昇華堂印刷』と奥付けに印刷会社の名前が記載されていた。
「おべんと屋さんみたいな名前ね」
「松花堂弁当か。そう言えば少しお腹空いてきたな」
一夜はごそごそと鞄を漁ると小さめのチョコバーを取り出し口に放り込む。
「あー、いいなずるーい。てかアンタいつもそんな物持ち歩いてるの?」
「うるさいな、糖分は脳のガソリンだ。必要な時に必要な分、何時も摂取できるように常備してる」
うるさそうにしながらも、鞄からもう一つチョコバーを取り出すと澪に投げてよこす。
「へっへ、有難う」
甘い物には目が無いらしく、嬉しそうにチョコバーの包装を剥がして口に入れる。
「それで、何の話だったっけ?」
「そうだった、脱線するところだった。ところでお前ら、今あげた七不思議を聞いて何か気が付かないか?」
少し考え込むミロク。
澪は考える事は諦めてるのか、もごもごと貰ったチョコバーを食べながら話の内容を聞き入っている。
「んー。オーソドックスなモノが少ないなとは思った。トイレの花子さんとか、理科室の人体模型とか、定番の七不思議が無いよな」
「そうだな、それも特徴としてある。それじゃぁ、分かりやすい様に情報を付け足すぞ」
そう言って、一夜はもう一度先ほど話題に上がった七不思議を一つづ挙げていく。
笑う『特別教室棟の』音楽室のベートーベン
女生徒の消える『新校舎と特別教室棟を繋ぐ』渡り廊下
増える『新校舎の』十三階段
吐血する『特別教室棟の』美術室のブルータス
彷徨う『中庭の』創立者銅像
『第一』体育館で踊る影
悪臭漂う『特別教室棟の』理科室
『新校舎の』屋上を転がる生首
永遠に端が来ない『新校舎の』廊下
開かない『新校舎の』教室、入ると死ぬ
血が湧き出る『管理棟に飾られる』優勝カップ
『管理棟食堂に現れる』深夜の殺人料理人
「どうだ?」
「んー、七不思議の場所を追加したのか?」
県立水辺高校には、校長室、職員室、講堂などが存在する管理棟、各学年の教室が有る新校舎の教室棟、理科室や家庭科室、音楽室などがある特別教室棟、第一体育館、少し小さめの第二体育館、武道館、そして取り壊し間近の旧校舎の建物が存在する。
「ねー、ここの七不思議は無いの?」
「ここ?」
チョコバーの粘り気のためなかなか飲み込めず、口をもっちゃもっちゃしながら澪がポロリと疑問を言う。
「それだ!」
「どれ?」
嵌らない会話にミロクが困惑する。
「あ、えっと。ここってのはここ。旧校舎って事」
まず澪が答える。
それにかぶせるように一夜が話し始めた。
「そうだ。今まで集めた七不思議には一つも旧校舎の物が存在しない。なぜだ? ココこそ七不思議が生まれるのに最も良い条件を有しているんじゃないのか。理科室からする悪臭などと言う無理やりな感じの七不思議なんかよりも、旧校舎をさ迷う女生徒ととか用意した方が百倍それっぽいだろう」
「そりゃそうだな」
「たしかにー。旧校舎とかうちらオカルト部しか使ってないけど、帰るときとか真っ暗で怖いしねー」
「代々旧校舎を使っているオカルト部の会報に一切旧校舎の七不思議が載っていないのが不思議でならなかった」
「それを立花先輩に聞こうと?」
ミロクの言葉に頷く一夜。
「そうだ。オカルト好きの先輩なら当然調べてるだろうし、知ってるかもしれないしな」
「ふーん、でもなんで突然七不思議なの?」
部室の机に腰かけ先ほどまでパラパラと捲っていた会報を少し短めのスカートから覗く太ももに挟んで寛ぐ澪が聞いてくる。
「ん? 何でと言われてもな。部室内の会報をすべて読んでみたところ、気になったからとしか」
「え、アンタ、あの会報全部読んだの?」
部室の棚に入れられた会報の指さしながら驚く。
「別に大した量じゃないだろ。創立百年も行かない学校であるし、オカルト部もそれほど歴史が深い部活でも無いからな。毎年文化祭用に作成してても三十冊も無い。まあ、部活が活発な頃は年に何度か発行していた事もあるみたいだし、そこに有るのでも五十冊程度だろ」
事も無げに告げる一夜の言葉に気になるフレーズを見つけたミロクが尋ねる。
「そこに有るのでって事は、他にもどこかにあるのかい?」
「ああ、実はところどころ年代に抜けが見られる。実は、初期の頃、恐らく旧校舎が実際教室棟として使用されていた頃の会報は一切存在しない。まぁ、それがあれば旧校舎時代の七不思議が載ってると思うんだがな」
「なるほど、つまり新校舎に教室棟が移動して以降の会報しかないってこった」
「そう言うことだ。それも先輩に聞けばわかるかもしれないな。ところで」
一夜はずいっと澪に向かって身を乗り出す。
「な、なによ」
突然の事に戸惑う澪をよそに、一夜は彼女の太ももに挟まれた会報をひったくる。
「ちょ」
「太ももで本を挟むな。太ももの圧とじんわりした汗で本がふにゃふにゃになるだろうが。挟むなら俺の手を挟め」
「キモイー、ちょっとミロクコイツどうにかして」
二人のやり取りに興味がないミロクは手に持つ会報をパラパラと捲って中身を読みながら適当に答える。
「今のは澪が悪いよ。本を粗末に扱ったらだめだよ」
「いやいや、その事じゃなくて。いや、そこの事は私が悪いんだけど」
「澪の太ももならきっと良い触り心地と圧が感じられると思うんだがな」
「もー、キモイー」
ワイワイと部室内で言いあいをしてると、唐突にガラっと部室の扉が開かれた。
ワイシャツに赤いジャージを羽織り、短めのスカートの下にこれまた赤いジャージを履いた立花妃花がそこに立っていた。
「お待たせ諸君! さあ、オカルトを語り合おう!」
残念美人の登場であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます