第9話 受験

 その後から受験までは一瞬で時間が流れた気がする。

 

 でも今思えばあの忙しく平凡な日々は幸せだったとわかる。


 人生っていいことばかりは起きないし悪いことだけってこともない。


 そもそも、幸せなんて、馴染んでいる環境より楽しいと思えることが起こるか、もしくは自分がそう思い込むかだけだ。


 今の私は、今の状況を、とてもじゃないけど楽しいと思い込めない。


 はっきり言って今まで幸せだったんだなっていうか、人生舐めて生きてたんだなって思った。


 正直、勉強とか必死にやらなくてもそれなりに真ん中より上だったし、大体のことは適当にやっても平均以上はできていると思ってた。


 センター試験はそれなりにいい点取れたし、カナエとユリナと同じ大学いけるねって喜んでた。ユリナに落ちないように頑張ってねなんて冗談を言ってた自分を殺したい。


 サボったりしてたわけじゃないそれなりにやってはいたんだ、もっと頑張ればよかったし、もっと頑張れた後悔。

 それなりにしかやっていなかった後悔、なんで必死になれなかったんだって今更思う。


 センターでは行きたい大学に手が届く点数がとれ一安心だったのに、二次試験が過去最高にわからず不合格。

 これが不幸なんて言ったら、不幸舐めんなって言われるかもしれないけど。

 カナエとユリナは無事合格。

 それを喜べないどころか、自分が落ちたときに少しでも最低なことを祈ってしまった事。

 それがさらにやり切れなさを感じさせる。


 悲劇のヒロインになれればどんなに楽か。


 みんなに同情され心配してもらえて言い訳もできる。


 受験の時に熱あったとか。

 もちろん出ていないし過去のことは変えられない。だからそんなことをうだうだ考えても仕方ないんだけど。


 そういう思いはエスカレートして、車にひかれちゃいたいとか、泣ける映画のヒロインみたいに絶対死んじゃうような病気にかかりたいとか。

 自分はなにもしてないけど不運な、誰もが同情してくれるようなことが起こればいいのにって願ってる。


 合格発表の日からラインは開けてない。心配されてたら惨めだし。見るのが怖い。


 スマホもいじらずそんなことばかり考えながらバイト先に向かってる。


 こんな気分でもバイトに行こうと思えたのはエミカ先輩ならこの気持ちをなんとかしてくれるんじゃないかなって、なんとかしてほしいなって思ったからだ。

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