3月ひなまつり。
ひなまつりの歌は、結婚式の歌なんだと前に父が言っていた。
「官女の姉妹とかの話なのかね。」
「は?何、突然、何の話してんだ。」
至極真面目に尋ねた言葉に、目の前で雛霰をもぐもぐしていた残念なイケメンが、次の雛霰を口に運びながら首を傾げた。
「だから、ひなまつりの歌。お嫁にいらした姉さまによく似た官女の白い顔。って歌詞があるでしょ?つまり、姉さまと官女は似てるんでしょ?んじゃ、家族じゃん?って話。」
もぐもぐと相変わらず口を動かしている残念なイケメンからの返答はないようなのでご主人さまを見ると、困ったように優しい切れ長の目が細くなる。
「俺、一人っ子だったら・・ひな祭りの歌は一番くらいしかわかんないな。」
「そうなんですか?歌いますか?私、音痴ですが。」
「やめろ、聞きたくない!!」
コホンと咳払いをして今、まさに歌いだそうとした瞬間、横から残念なイケメンの大きな手が私の口を塞ぎました。何これ、誘拐されますか?私、これから?雛霰を珍しそうにその大きな美しい手の平に乗せてコロコロしているご主人さまの前の前で?っていうか、自分のペット誘拐されそうになってるのになんでこの人気づかないの。目の前でペット誘拐されそうだよ!悪い人に口を塞がれているよ!
「・・・ん?何してるの?」
「むぐぐ、」「こいつが悪魔の手まり歌を歌いだそうとしたから、全力で阻止してるんだよ。」
ようやく気づいたご主人さまが、切れ長の目を大きく開いて驚いている。私は、大きな手で口を塞がれて軽く目が飛び出そうになっている。だいたい悪魔の手毬歌ってどういうことだよ。この少人数で殺人事件なんて起きたら、探偵以外の犯人しか有り得ないじゃん。
「ちょっと、奏士。放してあげなって・・・ほら、大丈夫?」
「い、いきが、本気で、息が、はあはあ」
「うわ、リアルにはあはあしてる。キモイわ、ペットちゃん。」
誰のせいだよ。そう言いたくなるけど、新鮮な息を吸いたがっている本能に勝てるはずも理由もなくて私はいつもよりも荒めの呼吸を繰り返す。
「せっかくの女の子のお祭りなのに。あ、でも、右大臣と同じ色になってるよ。」
「・・・・・・・・・・・。」「・・・・・・・・・・・・・・・。」
それって、顔が赤くなっているってことですか。同じ感想を持ったらしい残念なイケメンと視線を交わして楽しそうな顔をしているご主人さまを見つめた。
雛人形なんてもちろんこの家にはない。だけど、今日の晩御飯は散らし寿司だし、雛霰だってある。ペットのひな祭りなんてこれで十分すぎるほどだ。
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