1月 正月。
新年最初のチョップ!なんて高らかに叫ぶ声がしたと思った途端に額に鈍い痛みが走った。
「いった!!何?」「いつぅ、」
驚いて目を開けると目の前にふわふわの綿菓子のような髪。すぐにご主人さまが頭を抱えているんだとわかるけど、年明け最初の朝に見たものがご主人さまの天然パーマって。
「ご、ご主人さま?え、なにがどうなって、」
「ごめん、俺が悪い。ちょっと寝ぼけてた。強く当たりすぎた。」
搾り出すように、くぐもった声がご主人さまの口があると思わしき場所から聞こえてくる。私は、強制起動させられた頭が物事を処理することを放棄してしまったのかと思うほどぼんやりしていた。目の前で痛みを堪えるご主人さまが丸くなっている。いったい、何が起きたのか。
「ご主人さま、大丈夫ですか?何を、」「いや、今年一番に触るのにインパクトを求めたら、なんか頭突きをしようと思って。」
にこり、とどうしようもないくらいの笑顔で言われたけれど、確かに私の耳に残る声は、頭突きではなくチョップと言っていたし。それに何より、なんで頭突きなんて危険なスキンシップを思いついたのか。いや、そもそもなんでインパクトを求めたのか。全くもって新年早々、この人意味わかんないんだけど。
「あ・・と、とりえず、あけましておめでとうございます。おかげさまで素敵に目が覚めました。でも、ですね。心配しなくても今年一番に私に触ったのはご主人さまですよ、思い出してください。夕べ、年明けおめでとー!ってした後に、」
そう、夕べ年越しのお約束、紅白歌合戦の後の行く年来る年を見ながら、あけましておめでとう。をした後、なにやら楽しくなってしまったらしいご主人さまは、いつものように優しく笑いながら、
「今年もよろしくね。」「はい、ご主人さま、よろしくお願いします。」
ご主人さまの長くて細い腕が伸びてきて私の肩をらしくもないくらいに強い力で引っ張った。何も装備していなかった私の身体はわかりやすいくらいにその攻撃をまともに食らって受身を取る間もなくバフンとご主人さまの厚いわけではない胸板に飛び込んだ。
私と同じ洗剤の香りがする。先週変えた柔軟剤の香りがする。私と同じボディーソープの香りがする。シャンプーの香りがする。それから、ご主人さまの匂いがする。
「今年初のスキンシップ!」「痛い、鼻が痛いです。ご主人さま、」
ぎゅうっと抱きしめられた胸の中で私は、胸伝いに聞こえてくるご主人さまの低くて細い声を聞いていた。くぐもって聞こえてくるそれに混じって聞こえてくるご主人さまの心臓の、音。
「今年も、俺のそばにいてね。」
それは保証しかねます。そう言おうとして、なのに私の口は開くことを拒否したようにただただ、ご主人さまの心臓の音に耳を澄ませていた。
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