12月 大掃除。
パタパタと擬音を付けたくなるような仕草でご主人さまが、棚の上の埃を掃除している。それを見つめながら、私はバケツに溜めた水で濯いだ雑巾を絞った。
「ご主人さまの部屋は、綺麗ですね。」
「何、急に。そりゃあ、よく出来たペットが毎日のように掃除してくれてるんだもん。」
優しい目をして、ありがとうなんて言いながら笑うご主人さま。私は、その言葉に何度も救われているんだ、ということを全力の信頼がくすぐったくて嬉しいんだということを、今更になって実感して歌いだしたくなる。
「そいつはどうも。」
素直に感謝を口に出来るご主人さまが、羨ましい。私の口はと言えば相変わらず思っていることを素直に口にはしない。
「これなら、大掃除はすぐに終わりそうだね。」
「そうですね。けど、このあと御節とお雑煮を作らないと。あぁ、大晦日って本当に大変に面倒だ。」
「俺も手伝おうか?お雑煮の具材を切るくらいなら俺でも出来るかな。」
そうしてもらおうかな。網戸を拭いて黒く色づいたバケツを覗き込みながら、私は一瞬だけ考えた。それから、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「そういえば、ご主人さまってお料理できるの?私が来るまでご飯、どうしてたの?」
確かに一通り調理器具は揃ってた。それに調味料もあった。しかし、あれはご主人さまが買ったのかご主人さまが連れ込んだ元彼女たちが持ち込んだのか。判断に迷う物である。
「うーん・・・どうだったかな、あんまり覚えていないよ。」
なんで、自分の飯事情を記憶していないの。今までどうやって生きてきたの、霞?霞でも食ってきたのか、この人は。
ふわふわと何でもないことのように笑うご主人さまは、他の部屋も埃あるかな、なんてご機嫌に歩いて行った。その背中を見つめながら、私は溜め息を一つ二つ。本当にこの人が何を考えているのか、全くわからない。
「・・・とりあえず、具材切るくらいなら・・任せても大丈夫かな。」
手先は、器用な方だったはずだ。これまで暮してきた中であまりそんなことを気にして来なかったから、注意してご主人さまの手元を見たことがない。
それでも、やることの多さと私の手際の悪さを天秤にかけたらどう考えても、何度考えてもご主人さまの申し出はありがたい。
「あぁ、そうだ。買物も行かないと。今日の晩御飯、どうしよう・・」
山積みのやることを口に出して、頭を抱えてしまいそうになる。仕方がないから、私は溜め息を吐いて真っ黒な色をしているバケツの中の水を流すことにした。
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