11月 お月見。

 月には、ウサギが住んでいる。そうしてお餅をついている。ペッタンペッタンと真ん丸い餅をついている。

「そうして出来たのが、これです。」

「なるほどね、それはすごいね。」

ご主人さまは、楽しそうに笑いながらお餅を月に翳した。白玉粉で作った手作りお餅を私は口に入れた。二人でベランダに座って空を見上げている、私たちは相変わらずな距離だ。

月と地球ほど離れてはいないけれど、ウサギとお餅ほど近くはない。

「うん、美味しいお餅だね。これ、中に何も入ってないのがいいね。」

「白玉餅です。本当は中にあんこでも入れようかとも思ったけど、面倒だったので。」

もさもさと口の中が乾燥していくような食感を味わいながら、私はぼんやりと月を見ていた。隣りにいるご主人さまはいったいどこを見ているのだろうか。それを確かめるために隣りを見るのが、ほんのりと怖い。

「本当、良い月だね。」

「ふは、ご主人さまに月の良し悪しがわかるんですか?」

「わかる、と思うけど。とにかく、今日の月は満月だから良い月なんじゃないかと思うな。」

「なるほど、それは一理ありますね。」

何の意図もせずに隣を見ると、何の意味もない笑顔でご主人さまが私を見ていた。いや、私を見ていたわけではないかもしれない。ひょっとしたら、ただこっちを見ていただけかもしれない。そう思って視線を逸らせば、低くて細い声が抗議するようにちょっと、と発する。

「なんで、目を逸らすの。俺の判定にミスがあるの?」

「いえ、・・・いえ、そういうわけじゃ、」

ふわり、まるで目の前のお餅を掴むように優しくご主人さまの長い指が私の頬を摘んだ。いつものちょっとだけ高い声が笑っている。

「お餅みたいだね。柔らかい、」

「褒めてる?貶してる?」

びよーんと頬を伸ばされながらの言葉に、ちょっと抗議の意味を込めて言うとご主人さまはまた、楽しそうにいつもよりもちょっと高い声で笑った後、そっと摘んでいた指を頬に当てた。大きな手の平が、優しく頬に宛がわれる。

「褒めてるんだよ、もちろん。」

じっと見つめてくる優しい瞳を、今度はしっかりと見つめて私はそっと笑った。


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