10月 紅葉狩り。

 その真っ赤な葉は、まるで血のように濃く深い色。昔、読んだ本で紅葉の真っ赤な葉の色は、下に死体が埋まっているからだと書いてあった。

「・・・犯人は、残念なイケメン!」

「何の話だよ、だいたい想像はつくけど。」

「俺も、犯人は奏士だと思うな。」

「だから、何の話だよ。」

ひらひらと落ちてきた紅葉を、何でもないようにキャッチしたご主人さまが、私を見ていつものように優しく笑った。それから、私の手にその紅葉を乗せた。真っ赤に色づいた紅葉が私の手の上で赤く燃えている。

「あげるよ、今日の記念に。」

「ありがとう、ご主人さま。」

紅葉を見に行こうと言い出したのは、残念なイケメンだ。いつものように突然やってきて、そのままあれよあれよ、という間にご主人さまと私は車に乗せられ、こうして近くの紅葉スポットであるという山までやってきた。やってきた、と言っても車を運転したのはご主人さまであるのだけれど。

「にしても、綺麗だな。ちょうど見ごろじゃん。」

「いや、これは散ってきているから見ごろではない。残念なイケメンが、残念な紅葉狩りをしているだけだ。」

「お前は紅葉の何を知ってるっつうんだよ。」

「知っているね。少なくとも、本場の紅葉狩りは玉こんにゃくが必須アイテムだってことを知っているね。」

どこからともなく漂ってきた良い匂いの先を指差して言えば、残念なイケメンもそちらを見た。玉こん、と書かれた車の周りには人が数人集まっていた。

「おお、じゃあ、買ってきてやるよ。葉も食うだろ?」

「わ、奏士が奢ってくれるの、優しい。」

言うが早いか、車に向かって駆け出した残念なイケメンの背中を見送る。ご主人さまは、切れ長の瞳を細めて上を見た。私よりもずっと高いところにあるご主人さまが、上を向いてしまうともう私には表情を見ることはできない。いったいどんな表情をしているのか、いったい何を考えているのか。

「ご主人さま、」

「・・綺麗だね、俺今までこんな風に紅葉を見たの初めてかも。」

静かに私を見たご主人さまは、いつものように優しく笑うと私の髪をそっと撫でた。長い指がだいぶ伸びてきた私の髪を梳いた。

ぞわり、と背中が粟立った。


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