六月 一緒に寝る。

もぞり、寝返りをうった体を何かが不意に抱きしめる。

「…ん…?」

うっすら目を開けると、目の前に黒い髪がふわふわと跳ねている。ご主人さまと一緒に寝るようになって一ヶ月がたつ。人間の慣れというのは凄まじいもので、今では起きたときに目の前にこうして他人の頭があることに何の違和感も感じなくなっている。

今は、何時だろうか。部屋には光が射しているからたぶん明け方ではあるんだろう。胸元に顔を埋めるようにして寝ているご主人さまの背中に手を回して抱き返すようにして私はまた目を閉じる。

「はあ、一緒に寝るんですか?」「はい。せっかくですから。」

ここにきて二週間ほどした頃、ご主人さまがそう言った。私はそれまで、リビングにあるソファーで寝ていたのだけれど六月に入ってすぐにご主人さまは毛布と枕を買ってきて一緒に寝ようと言い出した。別にソファーでも不便はなかったので遠慮をしたものの、笑顔のご主人さまは私に拒否権なんてくれなくて、猫も犬も一緒に寝るらしいですから、と真面目な顔をして寝室の扉を開けた。

「いえ、けど、狭くないですか?」「大丈夫ですよ、このベッドキングサイズですから。前に三人で寝たときも余裕でしたから。」

三人で。なんの理由があって寝たんですか。首のすぐまで出てきた問い掛けをごくんと慌てて飲み込む。聞いちゃいけないこともあるのだ。

「毛布と枕も買ってきました。……はい、どうぞ。」「あ、りがとうございま、す。」

水色のタオルケット毛布と同じ色のカバーがついた枕を渡され、私はポカンとしながらなんとか返事をする。ご主人さまは満足そうに嬉しそうにいつものように優しく笑うと一足先にベッドの窓側に寝転んだ。私は、まだポカンとしたまま手にある毛布と枕、それと大きなベッドの半分に横になるご主人さまを交互に見た。

ただ、寝るだけ。一緒に寝るだけだ。

心の中でだけ呟いて、心配と疑問を飲み込んだ。何もおかしいことはない、だって私はペットなのだから。何もおかしいことはない。

私は一人呟くと、そっと布団に潜り込んだ。

「……眠れないんですか?」

まどろんでいた意識を低く掠れた声が呼び戻す。眠れなくないよ。今、まさにうとうとしてたんだよ。そう言いたくなるのに半分寝ていた意識はうまく命令を聞いてはくれなくて、私はぼんやりとしたまま、ふん、とか、ふぁいとかそんなような鳴き声で返した。

「足が、冷たいです。」

するりと絡んできた足に私の足が挟まれる。別に冷たくないけど、ご主人さまがそういうならそうなのかもしれないと、温かいご主人さまの太股に足を挟まれながら。ふわふわと跳ねる髪に指を撫で入れた。二人分の熱で布団が暑いせいか、ご主人さまの髪の中はしっとりと湿っていた。

「これで、眠れますよ。」「……ふぁ、い、」

背中にご主人さまの手が回る感触がして、ポンポンと優しく一定のリズムを刻む。それに合わせるようにだんだんと眠りの波が寄せてくる。私は、ぼんやりとうとうとと目を閉じた。

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