第41話 封印された時のネフェリウスの攻略法

 ネフェリウスの影と戦いの翌日、ログインすると、知らない四十人あまりの人間から、メールが来ていた。


 表現は微妙に違うが、内容は「時の切手を売ってください」だった。

(二十人も目撃者がいたから、こうなるか)


 遊太はメールを破棄していく。メールの処分が終わると、港に行き茨姫と会う。

「昨日は急にログアウトして、ごめん、さすがに二時間の戦いは疲れた。それで、報酬の件だけど、やっぱり時の切手を売却して半額を渡したほうが、いいか?」


 茨姫は嫌な顔をせずに気前よく申し出る。

「いいですよ。遊太さんが欲しいと頼むのなら、上げます」


「いいのか? 出回っていないから、今なら、億円単位の金になるんだぜ」

 茨姫は微笑んで持論を語る。


「いいですよ。ここはゲームの世界。現実を持ち込みたくないんです。私はプロ・プレイヤーには魅力を感じない。それに、私の分の報酬は義経さんから貰いました」


(義経の奴、なかなか心憎い計らいをしてくれる)

「なら、記念にとっておくか。それで、二枚目が取れたら、一枚あげるよ」


 茨姫は明るい顔で、遊太を褒めた。

「遊太さんなら、二枚目だって取れますよ」


「どうだろう。まず、黄金鰹の入手が難しい。それに、一回でも失敗すると負けになる二時間の激闘は、さすがに疲れる」


「そうですか。なら、気長に待ちますよ。それと、明日から五日間は別の人と冒険に行きたいんですが、いいですか?」


 ずっと一緒に漁をしてきたので、少し寂しくもあった。

 だが、茨姫はアイテムではない。血の通った人間だ。付き合いもあろう。


「良いに決まっているさ。ここは自由なゲームの世界。六日後にはネフェリウス戦があるから、それには一緒に行けるかな?」


 ちょっぴりだけ勇気を出して誘った。

「いいですよ。では、六日後に、ネフェリウス戦に行きましょう」


 遊太は茨姫と別れる。遊太は一人で漁船を出して、鰹漁に出ようとした。

うしおの理の団員が声を掛けてきた。団員は笑顔で漁船を褒めた。


「いい漁船だね。高かったろう」

「まあ、そこそこね。俺のもの言わぬ相棒さ」


 団員は感じもよく訊いてきた。

「もしかして、海底探査装置を持っていないか? 持っていたら頼みがある」


「持っているけど、何? 宝箱の引き上げを、したいのか?」

「義経さんって海賊がいるんだ。義経さんが四回目のネフェリウスを呼び出すのに、時の金貨が不足して、困っている」


「それで、宝箱を引き上げて売りつけよう、って考えたのか?」

 団員はあっけらかんとした態度で打ち明けた。


「正確に言えば、お土産かな。俺たちもタダで遊ばせてもらっている手前、いつも手ぶらじゃ、格好が付かないからな」


(義経に時の金貨が行かないと、俺も困るか)

「なら、手伝おう。俺も四回目は、参加するつもりだ」


 宝箱を引き上げる。十個も引き上げて、時の金貨が、一枚しか手に入らなかった。

残りはゴミだった。


 遊太は港に帰ってくると、正直にぼやいた。

「時の金貨が一枚か。何か悲しいな」


 団員は慰める。

「そんなことないさ。一枚でもあれば、俺も皆の手前、格好が付くから、ありがたい」


 いくばくかの報酬を、団員から受け取った。

 その日の内に、傭兵斡旋所に行き、義経のネフェリス戦の募集に応募しておく。


 次の日も、次の日も、別な団員から声を掛けられた。

 遊太は宝箱探しで時間を潰す。


 五日目の日には大木戸と一緒になったので訊く。

「ネフェリウスの新たなギミックの攻略法ってわかったのか?」


 大木戸は明るい顔で解説した。

「義経が突き止めた。最後のギミックはネフェリウス・ステージの海底に潜らなければならない。そこで、宝箱を浮上させる。宝箱の中から出る解放された砂時計を使う。それでダメージを与えられるようになる」


 気になったので、さっそく確認する。

「ネフェリウス・ステージの海底って何m?」


 大木戸は素っ気なく教えてくれた。

「深さ四百m。人間が耐えられ圧力じゃない。引き上げるには、潜水艇か魔法薬が必要だ」


「深度四百mまで潜れる魔法薬って、錬金術で作れないぞ。それに、潜水艇は実装されていないだろう。攻略は無理じゃん」


 大木戸はにやにやと笑い、情報を披露する。

「それが可能なんだよ。魔法薬はユニーク・キャラの錬金術師なら作れる」


「コンスタンスか? じゃあ、潜水艇は?」

「ネフェリウスの海底に落ちている宝箱から出る図面があれば、ユニーク・キャラの機械技師が作れる」


「なるほど。次からは難易度が落ちる仕様なんだな。でも、宝箱から潜水艇の図面みたいな良いアイテムが出ると、取り合いになるだろう」


 大木戸は真面目な顔で、注意点を説明する。

「なる。それが罠だ。宝箱は開けると、ネフェリウスに二分間ダメージを受けなくなる。プレイヤーが欲に溺れて、浮いてきた宝箱を次々と開けていけば、ダメージ無効時間が、累積される」


 遊太は感心した。

「よく、そんな仕組みが、わかったな」


 大木戸は素っ気ない態度で、あっけらかんと語る。

「義経は時の切手を手に入れている。未来の自分から攻略法を聞いた、との噂だ」


(時の切手を使って、三年後の自分から攻略情報を聞く。運営も、よくまあ、そんな攻略法を考えたな)


「そうか。上手く行けば、明日には倒せるかもしれないな」

「期待は薄いが、これで攻略情報は、全てわかった。あとは当日の動き次第だ」


 遊太は港で大木戸を別れると、転移門でヴィーノ街に飛ぶ。

 オークション会場で黄金鰹の売り物を調べる。だが、一件もなかった。


(黄金鰹が手に入らなかったから、今回はネフェリウスの影との戦いは、お預けだな。コンテンツの独占は後味が悪い。黄金鰹を入手した他のプレイヤーに譲ろう)

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