第39話 鰹祭り開催

 マンサーナ島での鰹祭りは、義経のネフェリウス戦の前日に行われる。

 島の掲示板にも鰹祭りの開催の情報が載った。


 黄金鰹の一番鰹を釣った者には百万リーネの賞金が出る、とも公表された。

(賞金の出所は義経だな。実質、俺対参加者の全てか。ぜひとも他の船より早く黄金鰹を揚げてマンサーナの港に運ばないと)


 当日は波も穏やかで、晴れていた。絶好の釣り日和だった。

 漁船を持っていれば初心者でも参加できる天候だったので、参加者は多い。


 遊太は鰹祭り開催の二時間前に船を出し、茨姫を乗せる

 鰹祭り開始前に、餌となる鰯を入手しておく。


 充分に新鮮な鰯を入手後、鰹祭りの開始時間まで洋上で待機する。

 海上には見える範囲で三艘の漁船が、遊太と同じように待っていた。


 茨姫が意気込んで決意を告げる。

「遊太さん。運よく、潮の理が鰹祭りを開催してくれました。明日がネフェリウス戦なので、今日中に黄金鰹を揚げましょう」


「そうだな。今日はまたとない鰹漁日和だ。何としてでも、黄金鰹を揚げよう。それも一番鰹だ」


 鰹祭りが開催の予定時刻になる。洋上に浮かんでいる漁船が動き出す。

 すぐに、カモメが見つかったので急行する。


(幸先よく来たか。今日の俺はついている)

 鰯を餌に竿を振ると、当りが来る。強さからいって、鰹で間違いなかった。


(鰹祭りの効果がしっかりと出ているな。今日なら黄金鰹、行けるか)

 竿を揚げると、丸々と太った六十㎝の鰹が釣れた。すぐさま、生け簀に入れて次を釣る。


 他の漁船もやって来て、鰹を釣る。四十尾を釣り上げたところで、カモメが散った。

「次だ。次の魚群を探してくれ。俺はカモメを探す」


 三㎞離れた場所にカモメがいた。だが、すでに他の漁船が二艘いた。

 釣り始めると、二十尾しか釣っていないのに、カモメが散っていく。


「駄目だ。次だ。次に行くぞ」

「近い魚群に急行します」


 次はカモメと一緒に既に釣っている漁船が五艘も見えた。

 遊太が現場に着いた時には、カモメは消えていた。


(これは完全に鰹の奪い合いだな。海は広いが、参加者も多い)

 一時間ほど、カモメの群れが全く見えなかった。


(まずいな。カモメが全く見えない。大勢で釣ったから、釣り過ぎで鰹が消えたか?)


 焦りながらカモメを探す。

 カモメが近く寄って来て群れを作る。


「魚群、出ました」と茨姫が叫ぶ。

「よし、ここで決める」


 遊太は竿を振っていた。すると、漁船が一艘、また一艘と集まってくる。

(ここの魚群も、釣り過ぎで消されるかもしれない。落ち着け、落ち着くんだ。慌てては鰹を釣れない)


 鰹にしては大きな当りが来た。ついに来たかと思って、慎重に釣り上げる。

 釣り上げた魚は、まるまると太った五十㎝の金色の鰹だった。


「来たー、黄金鰹だ。港に急いでくれ。まだ、一番鰹になるかもしれない」

「了解、全速前進で港に向かいます」


 遊太は生け簀に黄金鰹を入れる。外に跳ねで出ないように生け簀の蓋をしっかり閉めた。


 茨姫が全速前進で船を港に向ける。

 船が港に向けて進むと、マンサーナ島が見えてくる。


 だが、先にマンサーナ島に向かう漁船がいた。

 相手の漁船のほうが九百mほど先行していた。


 相手の漁船も全速前進だった。

(まずい。先に黄金鰹を揚げた漁船がいた。このままでは、二番鰹だ)


 遊太は無念に思った。だが、相手の漁船に遊太の船が段々と近づいていった。

(相手は推進器周りの強化が済んでいないのか。俺の漁船なら、追い抜けるか)


 前を走る漁船との距離は九百mあった。されど、マンサーナ島までは、まだ三㎞ある。


 追いつけるかもしれないと希望がわいた。

 遊太の船は距離をじりじりと詰める。


(行け、行ってくれ、俺の漁船)

 港が大きく見えてきた。遊太の魚船は相手の漁船と並び、追い抜いた。


 漁港に入ると、道具屋の老主人の前に船を停める。

 生け簀を開き黄金鰹を掲げる。


「どうだ、黄金鰹を獲ってきたぞ」

「一番鰹! 遊太」の声が港に響く。港で歓声が起こった。


 約二十秒遅れて、追い抜かれた漁船が入ってくる。

 相手の漁師は非常に悔しそうな顔をしていた。


 遊太は鰹が悪くならないように、魔法の保冷箱に黄金鰹を入れる。

 拍手をする音がする。拍手をしていた人物は、義経だった。


「お前の勝ちだ、遊太。約束通りに銛はお前のものだ。賞金も持ってゆけ」

 ぴろりんと音がして百万リーネが送られてくる。


 表彰式のあと遊太はさっそく道具屋に赴き、残金を払い、銛を購入した。

 船の銛を交換する作業を見ていると、茨姫が感慨深げに感想を口にする。


「買っちゃいましたね、高価な銛」

「有り金のほとんど吹き飛んだけどな。価格に見合う品だから、いいよ」


 茨姫はにっこりと微笑む。

「明日が本番ですね。釣りましょう、ネフェリウスの影」


「そうだな。俺にできるのはネフェリウスの影から宝箱を入手することだけだ」

「ここに、いたのか遊太。深海のリングができたぞ」


 声のした方向を見るとオーエンがいた。オーエンは小さな箱を差し出す。

 中を開けると、黄金のリングが入っていた。


「リングは金色なんだな」

「賢者の石の粒が使われている。そのせいだな」


「ありがとう、これでネフェリウスの本体との戦いにも行ける」

 全ては準備万端で、明日を待つだけだった。

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