第34話 ネフェリウス討伐に向けて
翌日、ログインするとマンサーナ島は二百人以上のプレイヤーで賑わっていた。
プレイヤーの防具屋や、マントに付いている紋章を確認する。鏡の騎士団と白頭の鷲もいた。
港にいた
「鏡の騎士団と白頭の鷲って、敵対しただろう? なぜ、マンサーナ島にいるんだ?」
団員は素っ気ない態度で教えてくれた。
「敵対の件ね。両クランから使者が来て関係が改善したんだって。昨日、大木戸さんから団員に通達があったよ。港の掲示板にも出ているよ」
「大人の対応だな。いつまでも
遊太は港で船を出して、大砲を銛に交換する作業をする。
作業が終わったので、遊太は一人で鰹漁に出た。
二時間も粘ったが、鰹どころか鰯にさえ遭えなかった。
「変だな。海が静かだ。大型どころか、小型の魚群がまるでいない。ネフェリウスが出現する前触れか?」
マンサーナ島に戻って、セレーツア島に飛ぶ。
鰹漁から蟹漁に切り替えた。
二十個の蟹籠を設置する。八十杯の蟹が獲れたので、ヴィーノの街に運ぶ。
陽が落ちる前に、どうにか漁港に入れた。魚市場で仲買人に声を懸ける。
「セレーツア島の活蟹だ。買い取ってくれ」
仲買人が渋い顔して告げる。
「今度は、もっと早い時間に来てくれよ。八十杯か。四十八万リーネで、どうだ?」
「あれ? 価格が上がった?」
「上がったよ。ネフェリウスの特需だよ。嘘か本当か知らない。だが、ネフェリウス戦に行くには、蟹飯か鮪ステーキの恩恵効果がいいって情報が流れたんだよ。噂のせいで蟹が上がったんだよ」
「そうなんだ。蟹や魚の買い取り価格が上がるなら、漁師としては嬉しい限りだな」
マンサーナ島に戻る。港には疲れ果てたプレイヤーが三十人以上いた。
プレイヤーの顔には疲労の色しかない。ネフェリウス討伐は失敗に終わったと悟った。
ログアウトして、眠る。
朝起きて、ログインする前に攻略情報の掲示板を確認する。
ネフェリウス討伐反省会のスレッドが、すでに立っていた。
(やはり、失敗か、どれ、一回目の失敗で、どれほど情報が掴めたんだ?)
書き込みを見る。
ネフェリウスは呼び出しの儀式をしても、出現するタイミングは二時間後。
儀式終了から、出現までの二時間はマンサーナ島近海の魚群が消える。
(ネフェリウスを呼ぶと魚群が消えるんだ。それで他には、何がわかった?)
ネフェリウスが出現する場所は、マンサーナ島の隠された地底の遺跡から行く。
遺跡の先には桟橋があって、船と艦が出せる。
桟橋から船と艦に乗って、特殊ステージに進入する。
(ネフェリウス戦って、海戦なんだ。海戦なら俺に活躍のチャンスがあるかもな)
海戦ステージでは最初、ネフェリウスは存在しない。代わりに時の魚と呼ばれるカジキ鮪に似た魚が存在する。時の魚を釣った状態にすると、ネフェリウスが海底に現れる。
(何か、変わったギミックとボスだな。でも、この情報が本当なら、漁師でも活躍できるな)
ネフェリウスはでかい象の頭のような形をしたレジェンド・モンスターである。ネフェリウスは海中を上下に移動する。海中にいる時は攻撃しづらい。だが、爆雷で攻撃してダメージを与えると浮いてくる。
(クラーケン戦みたいな感じなのかな。前提クエストにクラーケン戦での勝利があるから、わからなくもない)
ネフェリウスとの戦いが始まるとネフェリウスは時折、怪音波を発する。
怪音波を聞いたプレイヤーはネフェリウスに操られる。この時、深海のリングがあると怪音波が無効化できる。
(なるほど。怪音波があるから深海のリングが必須だったのか。でも、義経のやつ、全く情報がなかったろうに、よくここまで辿り着いたな)
ネフェリウスはダメージを受けていくと、時間停止でプレイヤーの動きを止める。さらには時間逆行を使い、時間を巻き戻す。
時間停止と時間逆行は準備動作から発動まで、しばらく掛かる。
(結構、厄介な攻撃を使ってくるな。下手すれば、やたら時間だけを喰う特殊攻撃だ)
時間停止と時間逆行は前段階で、釣った時の魚をネフェリウスに食わせることで、中止させられる。
今回は、時の魚を食わせる作業が上手くいかなかった。結果、ネフェリウスが出現する制限時間を超過して、討伐が失敗した。
(一回目にしては、だいぶわかったな。これ、上手にやれば、三回目辺りで倒せるかもしれない。時の切手が現実に出回る日も近いか)
他者の書き込みを見る。
わからないと難しいが、わかってしまえば簡単との書き込みが多かった。
ログインすると、マンサーナ島はその日は風が強く、雨も降っていた。
(これは、今日はマンサーナ島では、漁に出られないな)
セレーツア島に行く。セレーツア島も、あまり天気がよくなかった。
(漁に出るか、どうか判断に迷う天候だな。どれ、漁協の人に情報を聞くか)
漁協に行く途中、セレーツア島では珍しく桟橋で漁船を十艘見た。
(いつもは寂れた島なのに、今日は人が多いな。何か、イベントがあるのか?)
漁協に行って、女性職員に訊く。
「今日、何かイベントあるんですかね? 漁船が十艘も停泊している」
女性職員は感じもよく教えてくれた。
「漁師のスキルを上げに、鮫釣りに来ているのよ」
「もしかして、ネフェリウス戦の時の魚を釣る練習ですか?」
女性職員が軽い調子で語る。
「当りよ。時の魚って、三m以上あるから、ある程度のスキルと装備がないと釣れないんだって。マンサーナのカジキって、出現品度が祭りの時以外は悪いのよ」
「ここなら、北に行けば、鮫は、うようよいますからね」
女性の職員の表情が、少しだけ曇る。
「三m越えを確実に上げられるようにするために練習するのは、いいわ。私としては鰭だけ取って身を捨てる真似はしないでね、って頼んでいるわ」
「海から貰った命ですからね。大切にしないと」
「それで、貴方はどうするの。鮫漁? 蟹籠漁?」
「なら、俺も鮫漁に挑戦しますよ。流行り物好きなんで」
遊太は一度、マンサーナ島に転移門で飛び、酒場に行く。
酒場で仕事がない若い漁師に声を懸ける。
「セレーツア島で鮫釣りをやりたい。船の操縦をしてくれ、報酬は鮫の売却価格の半分だ」
若い漁師は気の良い顔で請け負ってくれた。
「ここでカードをして時間を潰すのなんだし、付きやってやるよ」
二人で鮫漁に出る。鮫は一時間ほどで掛かった。
格闘すること一時間で、三百二十㎝のネズミ鮫が上がる。
(一回目より上手くできるようになった。漁師の操縦技術も悪くない。でも、鮫のスタミナを三倍奪える竿を使っている。釣るのに一時間は掛かりすぎな気がする。もっと、何か工夫が必要だな)
鮫をヴィーノの漁港まで運ぶ、鮫を丸ごと売却して金は折半した。
その足で道具屋に行く。
「三百二十㎝の鮫を上げるのに一時間も掛かった。これでは、遅すぎる。三百五十㎝クラスの鮫を四十五分で釣り上げるようになりたい。何か、手はないか?」
道具屋の若主人が、にこにこ顔で答える。
「ありますよ。装備の新調です。もっとよい魔法の竿、威力の強い電気銛、高品質な巻き上げ機、これらを買ってくれれば、時間を短縮できますよ。四十五分になるかどうかは、わかりませんが」
「また、そんな謳い文句で誘って。高額商品を売り付けようとしているだろう」
若主人は穏やかな顔で勧める。
「ネフェリウスの攻略情報が出て、漁師が必須だとわかってきましたからね。当然、漁師に求められる装備も、質が高いものが要求されます。船の装備品や魔法の竿は値上がり中ですよ」
「今、買うと高値なのかな?」
「高いかどうかは、わかりません。ですが、ネフェリウス戦に行くなら、買いですよ」
遊太は迷った。だが、道具屋の若主人の勧めに従い、魔法の竿、電気銛、巻き上げ機を新調した。
傭兵斡旋所に行くと、ネフェリウス戦の募集が出ていた。ただ、募集開始は一週間後となっていたので、次の募集までには時間があった。
遊太は茨姫にメールを打つ。明日から、一週間、大型魚を釣るのに付き合ってほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます