第32話 時の切手
遊太は鰹漁師になった。
しばらくの間、一人で黙々と鰹漁をして、島の魚市場に鰹を売る。鰹漁は順調だったが、競合する漁師が増えた。結果、鰹の価格は値下がりした。それでも、日に六万リーネは稼げていた。
マンサーナ島では魚市場が完全に復活していた。魚市場では鰹が買い取られて、水産加工場に送られる。水産加工場では日々、鰹節が作られ、ヴィーノの街に出荷されていた。
クラン戦は一度でも防衛に成功すると、八週間は発生しない。なので、島は平和そのものだった。
ある日、鰹を売っていると、大木戸から声を懸けられた。
大木戸は愛想よく誘ってきた。
「どうだ。俺たち
「悪いけど、今は遠慮する。気楽に一人で楽しみたい」
大木戸は強引には勧誘しない。
「そうか。なら、気が変わったら教えてくれ」
遊太は飽きるまで一人で鰹漁師を続けるつもりだった。
そんな、ある日、マンサーナ島の掲示板に潮の理の臨時集会の掲示が載る。
議題は『レジェンド・モンスターの討伐。封印された時のネフェリウス』となっていた。
(以前、義経がやると公言していたレジェンド・モンスターの討伐をやるんだ。でも、まるで情報がないネフェリウスの討伐なんて、成功するのか?)
興味は一応あった。されど、装備が貧弱な遊太では参加できるとは思えなかった。
(俺には関係はない話か)
ログアウトして、攻略掲示板の情報を見る。
ネフェリウス討伐は多くのプレイヤーの興味を惹いていた。だが、どんなモンスターかわからず、褒賞もわからないので、盛り上がりが今一つだった。
眠って朝起きると、掲示板の状況が一変していた。原因は運営からの書き込みだった。
『時の切手について。時の切手を貼った手紙を使用すると、未来の自分から、手紙を受け取れます。魔法図鑑では一枚につき一年後となっておりますが、正しくは三枚まで使用できます』
(何だ、これは? 未来の自分から手紙を受け取れる切手だと? 宇宙人のオーバー・テクノロジーの新しいアイテムだ)
ニュースをチェックすると、どこのニュースでも宇宙人が提供する新技術について話題になっていた。すでに、オークション・サイトでは時の切手一枚に三億円を出す人間が現れていた。
時の切手の入手できる方法は不明。だが、封印された時のネフェリウスが呼び出されるかもしれないタイミングである。時の切手はレジェンド・モンスターであるネフェリウスから入手できる可能性が高かった。
「これは、またマンサーナ島が騒がしくなるぞ」
ログインして、ヴィーノの街の酒場に行く。
三人のプレイヤーたちが真剣な顔をして噂していた。
「ネフェリウスだが、黒船海賊団の義経が、すでに呼び出す方法を見つけたそうだ」
「聞いたぜ。オークションで使い道がわからなかった、時の金貨。あれを買い占めていたのも義経だって話だ」
「近々、義経が討伐に向けて人を募集するって話だ」
傭兵斡旋所に行く。
義経が出す人員募集に遅れまいとするプレイヤーが既に張っていた。
(駄目だな、こりゃ。競争倍率が激しそうだ)
「遊太さん」声を懸けられたので、声のしたほうを見ると茨姫がいた。
「ネフェリウスの討伐に行くために募集を待っているのか?」
茨姫は穏やかな顔で訊いてくる。
「テッドさんの命令で待っています。遊太さんも参加希望ですか?」
「俺も行ってみたいけど。俺は良い装備がないから、無理かな」
茨姫は真剣な顔をして遊太の袖を引く。茨姫は店の隅に遊太を連れてゆく。
「もし、ネフェリウスの討伐に行く気があるのなら、手を貸しますよ。まずは、白頭の鷲がクラーケン討伐の募集を出すと思うので、募集が出たら受けてください」
「ネフェリウスを討伐に行くのに、前提としてクラーケン討伐が必要なのか?」
「クラーケンを倒したら、クラーケンに触れて、クラーケンのマナを取得してください。クラーケンのマナから深海のリングを作らないと、ネフェリウス戦に参加できません」
「よく、情報がない状況で、調べたな」
茨姫がにこっと微笑む。
「テッドさん経由での極秘情報です」
「わかった」と茨姫と別れる。
ほどなくして、白頭の鷲によるクラーケン討伐の掲示が、魔法の鏡に表示される。
募集人数は二百人だったが、すぐに徴募官の前に長い列ができた。
条件や報酬を確認しないで、急ぎ列に並ぶ。
今回は前回と違い、審査があった。審査は、徴募官の前にある台に手を置くだけ。
後は人工知能が、装備、プレイヤー・スキル、所持する乗り物から判断して
遊太の番になったので、銀色の台に手を置く。
『漁船所持者・合格』と表示されて、合格になった。
合格してから募集条件を確認する。
銛を大砲に換装した漁船所持者が必要とされていた。報酬はリーネのみで四万リーネ。
クラーケンを倒した時に手に入る、素材、武具、褒賞の権利なし。ただし、クラーケン討伐後にクラーケンから手に入るマナは取得が可、となっていた。
出発時間を確認すると、一時間後に港に集合と、準備期間が非常に短かった。
道具屋に駆け込む。
「すまない。急遽、クラーケン戦に出る事態になった。船首に積む大砲と砲弾が欲しい」
「急な注文だけど、一時間以内は揃えるよ」
道具屋に手伝ってもらい、銛を五インチ砲に交換する。ヴィーノの街の港に行く
港には六十五m級の軍艦が八隻、八十五m級が三隻、出ていた。
漁船も十九艘が出ていた。
港では白頭の鷲の団員がいて、指示を出していた。
「砲手と攻撃要員は軍艦に乗ってくれ。漁船は対クラーケン用爆雷を積みこんでくれ」
遊太も魚船を出す。他のプレイヤーに手伝ってもらい、直径一mの爆雷を四つ積む。
漁船に爆雷を積み終わると、慌ただしく「出航」の合図が掛った。
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