第30話 三つ巴のクラン戦(後編)
マンサーナ島に帰ってくる。
義経が率いる部隊は六十人で出撃して、五十人が帰還できた。
濡れた体をタオルで拭き、焚き火に当たる。
厳しい顔の村上が寄ってきた。
「どうだ? 上手く行ったか?」
義経はあっさりした態度で簡単に答える。
「クラーケンの誘導には成功した。義勇兵も勇敢に戦っている。だが、劣勢な状況は変わらない」
村上が険しい顔で唸る。
「海戦で勝てればよかったんだが、簡単にはいかんな。さすがは、鏡の騎士団と白頭の鷲といったところか」
「俺はさっそく次の策に取り掛かる。機雷の準備はできているか?」
「
義経が明るい顔で指示を出す。
「よし、諸君、急いで港の前面に機雷を設置するぞ。手伝ってくれ」
漁船を持っているプレイヤーが漁船を港に出す。
漁船に直径一mの機雷を積んで、海に出る。
遊太は魚船に作業員と機雷を載せて海に出た。
魚船に乗った、作業員の海賊に尋ねる。
「この機雷は敵の艦を感知すると寄っていく、魔法の感知型機雷か?」
海賊は気負わず淡々と答える。
「いいや、そんな高度な機雷は作るのに時間が掛かる。こいつはただの機雷だ」
「うまく機雷の設置場所に、敵の艦が来るかな?」
海賊は自信たっぷりに答える。
「来るんじゃない、俺たちで誘導するんだよ」
「そうだな。誘導できれば勝てるかもな」
海に約八十個の機雷を設置した。港に戻ると、海賊の小型艇がやってくる。
小型艇は義経の艦の横で止まり、操縦者が大声を上げる。
「
艦隊壊滅の一報に、港にいた潮の理の義勇兵がざわめく。
だが、義経は余裕の表情だった。
「そうか、艦隊が沈んだか。手痛い出費だが、ここまでは計算内だ」
義経は港の海賊に威勢よく命令する。
「よし、野郎共、魚雷の準備だ。小型艇に雷装させろ」
気になったので海賊に尋ねる。
「海賊の小型艇は雷装できるのか?」
海賊の一人が笑って教えてくれた。
「俺たちは二艘、小型艇を持っている。襲撃用の速度重視の小型艇と海戦用の雷装できる改造小型艇だ。雷装できる小型艇は遅いからな」
海賊が改造小型艇の左右に長さ百八十㎝の魚雷を装填する。
改造小型艇の数は六十艘あまり。
改造小型艇に雷装が終わる。また、一艘の小型艇が遠くからやってきた。
小型艇が義経の艦の横で止まると、大声を上げる。
「敵の残存艦、鏡の騎士団が三。白頭の鷲が二です」
義経がちょっと思案する仕草をする。
「敵は五隻か。思ったより減ったな。鏡の騎士団と白頭の鷲はどうだ? 交戦しているか?」
「いいえ、一時的に休戦しています」
義経は元気よく指令を出す。
「よし、諸君、ここが正念場だ。港の前面で敵を食い止めて、上陸を阻止する」
「おう」と威勢のよい声が港に響き渡る。
遊太は漁船をしまい、義経の艦に乗って出航した。
艦は機雷設置水域の左側に位置する。四隻の艦は全て横向きにして、片方の八インチ砲の十四門を全て使えるようにしておく。三十分後、五隻の軍艦が姿を現した。
五隻いる敵艦だが、うち四隻は六十五m級ではなく八十五m級の一回り大きな艦だった。
「砲撃開始」の合図で、敵と味方から砲弾が飛び交う。
砲弾が飛び交うと同時に、海賊の改造小型艇が港から走り出す。
改造小型艇は雷装しているため、二十ノットしか出ない。改造小型艇は味方の艦を通り越して、果敢に雷撃を行おうとする。
改造小型艇から発せられる魚雷が四十ノットで水飛沫を上げて敵艦に迫る。
だが、敵艦に乗っている魔術師が、氷、雷、エネルギー弾の魔法を次々と放つ。
魚雷は敵艦に接触する前に魔法で全て処理されていく。
(なんてことだ、あれだけ魚雷を撃ったのに一発も届かない)
八十五m級の鋼鉄艦の装甲板はおおよそ二~四㎝。
砲弾なら耐えられても、魚雷の一発で沈む。
(さすがに簡単には沈んでくれないか。でも、雷撃は大きなプレッシャーになるはずだ)
味方の六十五m級が一隻、砲撃戦に敗れて沈む。義経の艦も被弾が著しかった。
遊太はそれでも必死に砲弾を運んで大砲に込めて撃ち続けた。
敵艦に砲弾は命中している。だが、沈む気配がなかった。
味方の二隻目の艦が沈んだ。
義経の艦もぼろぼろで炎上していた。艦が大きく揺れた。
砲撃で穴だらけになった艦の限界だった。艦が沈む。
遊太は海面に投げ出された。海賊の漁船が近くに来たので魚船に這い上がる。
漁船は海面を漂う十人を回収すると、急いで港に引き返す。
砲弾が飛んで来る。砲弾は漁船に命中して漁船が割れた。港までまだ五百mあった。
砲弾の流れ弾が飛んでくる中を必死に泳ぐと、一艘の小型艇が寄ってきた。
小型艇は後ろが空いていた。操縦者は乗れと手で合図をする。
後ろに乗って、港まで運んでもらった。
港では攻撃を終えた改造攻撃艇が、第二陣の攻撃を仕掛けるために、雷装していた。
港に上がると、味方の艦がまた一隻、沈む姿が見えた。敵はまだ五隻が残っていた。
「砲撃戦用意」と村上の念が飛ぶ。港では大砲を持つプレイヤーが大砲を魔法で呼び出す。大小様々な百門以上の砲が港に並んだ。
戦況は完全に不利だった。魚雷部隊の二陣が編成される。魚雷部隊はすぐには出航しない。そのうち、味方の最後の艦が沈む。敵艦五隻が前進を始める。
「行くぞ」と義経の念が飛ぶ。
義経はいつのまにか港に戻っており、改造小型艇に乗っていた。
義経の操縦する改造小型艇を先頭に、四十艘の改造小型艇が海に出る。
敵艦隊は沈んだ艦と改造小型艇を避けるために直進しなかった。
敵艦隊は針路を機雷設地水域に変えた。
(海賊が予言していた通りだ。敵の艦隊が機雷設置水域に進んでいく。まさか、さっきの四隻の布陣も、魚雷部隊の第一波の攻撃も、敵を機雷設置水域に誘い込むための策だったのか)
海面を走る魚雷を打ち落とせる魔道士も、海中にある機雷には気が付かなかった。
敵艦隊の周りで次々と派手に水飛沫が上がる。機雷で沈みゆく艦に魚雷の追い討ちが襲いかかる。敵艦が一隻また一隻と沈み始めた。
現実であれば艦が沈めばたいて乗員は巻きこまれて死ぬ。だが、高度な装備、超人的なスキル、持つ化物じみた強靭さを持つ八百万のキャラクターは死なない。生き残った敵が沈んだ艦から次々と逃げ出してくる。
敵は泳いで島に上陸を試みる。また、最後に残った敵艦はそのまま前進して港に突っ込んできた。
戦いは港付近での攻防になった。上陸して白兵戦に持ち込みたい敵と、何としてでも上陸させたくない味方。遊太も慣れない弓を取って海上の敵に矢を放つ。
港から雨のように砲弾、魔法、矢が飛ぶ。
敵は確実に減りつつあるが、着実に近づいてきた。
(まずい。このまま上陸させたら、負ける)
空が広範囲に光った。敵の魔法だと認識した時には、女神像の前にいた。
体を起こす。次々と戦闘で殺されたプレイヤーが女神像の前に転移してくる。
魔法で地図を出して確認すると、場所はセレーツア島だった。
転移門でマンサーナ島に飛んで戦いに復帰しようとした。だが、マンサーナ島まで飛べなかった。
頭の中に女性の声が響く。
「クラン戦で死亡した場合の死亡ペナルティーはありません。ですが、クラン戦開催地へ入場は制限されます」
(クラン戦で死ぬと、戦争には復帰できないんだな)
時計を確認すると、時刻は二十二時三十三分だった。
(港での戦いが勝負の分かれ目だな。ここで勝てば逃げ切れる)
男が叫ぶ。
「ヴィーノの街に行く簡易転移門を出すぞ。使いたい奴は、勝手に入ってくれ」
男が光る石を投げる。男は光るゲートを作ると、飛び込んだ。
多くのプレイヤーが続いてゲートに入った。
遊太もゲートに入ってヴィーノの街に行く。
ヴィーノの街に着いた。行き場がないのでヒッコリに顔を出す。
ヒッコリにはテッド、茨姫、リンクルがいた。
テッドが渋い顔で訊く。
「何だ、遊太も死んだのか。戦況はどうだ?」
「港での攻防になっていた。上陸されれば負け。上陸させなければ勝ち、かな」
リンクルが腕組みして真面目な顔をする。
「あと、二十分くらいか。当初の予定と違って、けっこう善戦したな」
「そうだな。行けるかもしれない」
話をしていると、オーエンもヒッコリにやって来た。
オーエンは冴えない顔で告げる。
「やはり、ここか。クラン戦は危ないぞ。港への上陸を許した。俺も港で殺された」
茨姫がはらはらした表情で訊く。
「やはり、勝てませんか?」
「どうだろう? 義勇兵はまだ八百人は残っている。海賊と傭兵が合わせて百人。敵は凄腕のプロが二百人だ。これが港で乱戦をしている。もう、何が何だかわからん」
テッドが厳しい顔で意見する。
「そうか、上陸されたか。これは厳しいな」
ヒッコリで軽く食事を摂る。
街に設置されている案内用のスピーカーから、女性の声が流れる。
「クラン戦が終了しました。マンサーナ島への入場制限が解除されます」
時計を確認すると、二十一時だった。
「制限時間だ。逃げ切ったのか」
テッドが真剣な顔で席を立つ。
「よし、マンサーナ島に行ってみよう」
五人でヒッコリを出て、転移門でマンサーナ島に行く。
領主の館に向かうと、領主の館には潮の理の旗が靡いていた。
リンクルが喜びの歓声を上げる。
「おお、勝ったぞ。防衛成功だ」
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