第27話 クラン戦前の話し合い

 ログアウトして、八百万の掲示板をチェックする。

 クラン戦と賢者の石の情報で、書き込みが殺到していた。


「話題沸騰とはこの状況だな。まあ、リアル・マネーで億単位の金が動くクラン戦だから、無理もなしか」


 気になったので、ネットで賢者の石の今日の価格を調べる。

 賢者の石の最高値が十億円にまで高騰していた。

(十億円の利権か。千人で分けても百万円。これは、腕に自信があるプロ・プレイヤーが黙っていないな)


 眠って、一夜が明ける。ログインすると、テッドからメールが来ていた。

『十五時に、もう一人の仲間を連れて、料理屋ヒッコリに来てくれ』


(これは、どの陣営に属して戦うかの相談だな)

 遊太はオーエンに「十五時に料理屋ヒッコリに来てくれ」と、地図を付けたメールを打った。


 十五時までには時間があったので、マンサーナ島の掲示板を見に行く。

 掲示板には、うしおの理で義勇兵募集の張り紙があった。ただ、報酬は出るが上限が四万リーネだった。


(四万リーネでこの戦いに参加するプロは皆無だな。だが、無理もない。潮の理は賢者の石の合成が目的ではなく、島の環境を守るクランだ。オルテガ・バンクが手を引けば、金はない)


 鏡の騎士団や白頭の鷲がいくらでプロ・プレイヤーを雇うのか気になった。

 ヴィーノの街の傭兵斡旋所に行く。だが、鏡の騎士団や白い頭の鷲からの募集はなかった。


(人材の一本釣りか。公に募集せず、人脈を駆使してプロ・プレイヤーに声を懸けたな。スパイが入らず、腕の立つ人間を雇うにはいい)


 プロ・プレイヤーが鏡の騎士団と白頭の鷲どちらに流れるか。予測だが、三対二ぐらいで、やや鏡の騎士団が多いように思えた。


 資金力でいえば、定期的にレジェンド・モンスターを狩っている白頭の鷲のほうが資金に余裕がある。なので、前金を潤沢に用意できる。


 だが、今回は鏡の騎士団は賢者の石を合成する要のコンスタンスを手にしている。ゆえに、鏡の騎士団が勝てば恩賞は一番多い。


 前金か恩賞かを天秤に掛けたら、勝利で稼ぐプロ・プレイヤーなら鏡の騎士団に流れる気がした。


 傭兵斡旋所にいたプレイヤーの話し合う声が聞こえる。

「どうする? 募集があるのが潮の理だけだぜ。潮の理の義勇兵に参加してクラン戦に行ってみるか?」


「行くくだけ行くか。でも、俺の装備じゃ、プロが出てきたら終わりなんだけどな」

(俺の装備でも同じなんだよな。プロの一撃で沈むんだよな)


 海賊の動きが気になった。だが、海賊は敵対勢力扱いである。海賊は見かけたら攻撃される状況が多い。だから、街や村に入る時には変装や偽装をしている。どのプレイヤーが海賊かわからないので、情報交換ができない。


 海賊の街である海賊島まで行けば海賊が集まる海賊酒場がある。だが、海賊島では遊太たちは獲物同然なので攻撃を受ける。


(海賊王でも動けば話が別なんだろうけど、自由で気儘きままな海賊がどこまで頼りになるかわからない。それに、潮の理が勢力的に一番弱い)


 噂に聞き耳を立てる。だが、誰も潮の理が勝つとは思っていなかった。

 時間が近くなったので、料理屋ヒッコリに行く。


 テッド、茨姫、リンクル、オーエンは既に来ていた。個室に入って相談を開始する。

 テッドが真剣な顔で切り出す。

「まずだ、今回のクラン戦に参加したくない。または、参加しない者は手を挙げてくれ」


 誰も手を挙げる者はいなかった。

 テッドが頷いて議事を進行させる。


「この中で、鏡の騎士団か白頭の鷲からスカウトが来ている。ないしは、鏡の騎士団か白頭の鷲の援軍で参加できる人間がいたら、挙手だ」


 手を挙げる者はやはりいない。

 テッドは真面目な顔で告げる。


「よし、では、俺たち五人は潮の理の陣営で戦うところまでは、決まりだな」

 リンクルが冴えない顔で告げる。


「でも、恩賞の上限が四万リーネだぜ。下手に装備や乗り物が壊れたら、赤字になる」


 テッドが厳しい顔で提案する。

「わかっている。だが、上限四万リーネは潮の理での話だ」


 遊太は嫌な予感がしたので、確認する。

「おい、まさか、義経の下に付くのか?」


 テッドは真摯な顔で教えてくれた。

「実は海賊にちょっとしたコネがある。海賊の話だと、義経は違う。報酬の最低ラインが四万リーネだ。働きによっては青天井で報酬を払う条件で、人を明日から募集する」


 茨姫が表情を曇らせる。

「でも、海賊の手下になるのは抵抗がありますよ」

 リンクルの表情も厳しい。


「同感だな。少なくとも八百万の中では、海賊とは付き合うべきではない。それに、海賊同士の約束違反はペナルティーがある。だが、海賊は俺たちノーマル・キャラとの間では約束を反故ほごにしてもペナルティーはない」


 テッドは茨姫とリンクルに確認する。

「これは確認だ。なら、俺たちは全く儲からない潮の理の義勇兵になる――で、いいんだな?」


 ここで、オーエンが真剣な顔で意見する。

「それはどうだろうな。海賊は嫌いだ。だが、儲からない未来を前提で戦うのは、賢いとは言えない。俺はやる以上は儲けたい。海賊と組んでもな」


 テッドが遊太に視線を向ける。遊太は正直に答えた。

「俺はマンサーナ島の環境が好きだ。戦う力がなくても、潮の理の味方になってやりたい。だが、儲け話として始めた以上は儲けたい」


 テッドが不思議そうに訊く。

「じゃあ、どうするんだ?」


「チームを二手に分けよう。俺とオーエンが義経の募集に応じる。テッド、リンクル、茨姫は、潮の理の義勇兵に参加してくれ」


 テッドが渋い顔をして確認する。

「それは喧嘩別れってことか?」


「いいや、リスク分散って話だよ」

 リンクルが真面目な顔で確かめる。


「なら、最後は、おのおのクラン戦で得た収入から、経費を引いた分を持ち寄る。儲けを合算して五等分するんだな?」


 オーエンがむすっと顔で辛辣しんらつに指摘する。

「それだと、誰かが過少申告する可能性があるな」


「大丈夫だ。テッドたちのチームには、茨姫がいる。過少申告の心配はない」

 茨姫が気負った態度で認める。


「オーエンさんが過少申告する心配もないでしょう。そっちには遊太さんがいます」

 テッドが表情を和らげて会議を締める。

「決まりだな、ここまで紆余曲折あったが、精々儲けようや」

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