第24話 蟹漁と人魚のお願い
コンスタンスと別れて、ログアウトする。短い睡眠をとって再びログインした。
港に行くが、茨姫の姿が見当たらなかった。
郵便ポストでゲーム内のメールを確認すると、茨姫からメールが来ていた。
『リンクルさんの手伝いをしてきます。今日は遊太さんを手伝えません』
(そうか、手伝いはなしか。宝箱探しは手伝いなしでもできる。だが、手間が掛かるな)
海底を調査しようにも船を操縦してくれる人間がいたほうがよかった。
(一人で漁に出てもいいが、鰹漁は実質、できないからな。セレーツア島で毛蟹漁にでも挑戦してみるか)
一度、転移門でヴィーノ街に飛んで漁具を扱っている道具屋に顔を出す。
「セレーツア島で毛蟹漁をやりたいんだ。道具はあるかい?」
道具屋の若主人は気のよい顔で教えてくれた。
「お試しでやるなら、うちで道具を買うより、漁業組合で金を払って、蟹籠を借りたほうがいいよ」
「道具を貸してくれるんだ?」
道具屋の主人が冴えない顔で教えてくれた
「毛蟹漁って、大変だからね。長続きしない人が多いのさ」
「大変って毛蟹を取った後の話だろう。売るにはヴィーノの街まで来なければいけないからか?」
「そうだよ。毛蟹は悪くなりやすく、特産品に加工もできない」
「活蟹の価格はどうなんだ?」
道具屋の主人は真面目な顔で説明する。
「高いよ。一杯で四、五千リーネってところだ。でも、セレーツア島からヴィーノ街までだと四時間は掛かるから、運搬が大変なんだよ」
「やれて一日一度か。マンサーナ島の鰹なら数回は水揚げできるから、毛蟹漁は人気がないわけだ」
「そういうことさ。それで、高い蟹籠を買っても、やってられないと止めちまうプレイヤーが多いのさ」
遊太は転移門を使ってセレーツア島に飛ぶ。
セレーツア島は面積が三十五㎢とマンサーナ島の半分の大きさの島だった。
島の中央にある漁業組合に行く。漁業組合は二百㎡ほどの小さな平屋の木造の建物だった。
「蟹漁をやりたいので、蟹籠をレンタルしたいんですが」
漁業組合の女性職員が穏やかな顔で告げる。
「蟹籠は一つ一万リーネでレンタルできるよ。返却時に六千リーネを返金するから、なくさないようにね」
遊太が金を払うと。漁業組合印はクッキーの入った袋を渡してくれた。
「これは、サービスね。人魚に遭ったら、あげるといいわ」
「人魚が出るんですか? それは遭ってみたいな」
「毎回、必ず遭えるわけじゃない。けど、遭った時にクッキーをあげると喜ぶからね」
「それなら。ありがたく頂戴します」
遊太は二十個の蟹籠を船に積んで沖に出た。
魚群探査装置を見ると、深い場所にいくつも反応があった。
(深い場所で魚より動きがゆっくりだから、この反応が蟹だな)
遊太はまず蟹の反応を無視して、
反応があったので魚場に急行して網を投げると、鯖が掛かった。
鯖を引き上げると、蟹のいる場所に戻る。
鯖をぶつ切りにして、浮きがついた蟹籠を海中に入れた。
時間を確認しつつ、二十個の蟹籠を海に入れた。
全ての蟹籠を入れた時には昼を過ぎていた。
洋上で蟹籠に蟹が入るのを待つ。
若い女性が海面から顔を出しているのに気が付いた。女性の髪は金髪で肌は白い。
(海女さんや海水浴にしては、この場所にいる状況はおかしい。水死体や遭難者のようにも見えない。まさか、これが漁業組合の職員がいっていた人魚か)
女性は、そのまま立ち泳ぎをして寄ってきた。
女性は上半身には貝殻状のブラをしていた。
「こんにちは漁師さん。私は人魚のアルシノエ」
「こんにちは。蟹漁をしている新米漁師の遊太です。クッキーを食べますか?」
アルシノエはつんつんした感じで発言する。
「私がクッキーで釣られるような安い女だと思わないで」
「なら、要らないんですか?」
アルシノエは当然といった態度で強気に要求する。
「もちろん、いただくわ」
(何か、面倒臭い女だな)
クッキーを上品に食べるアルシノエに訊く。
「ここらへんに人魚さんの住み家があるんですか?」
「そうよ。でも、詳しい場所は教えられないわ。人間は凶悪だから」
(人魚ならマンサーナ島の海底の秘密を知っているかな)
「マンサーナ島って知っています? ここから南にある島です」
アルシノエは素っ気なく答える。
「知っているわよ。クラーケンの縄張りにある騒がしい島でしょう」
「確かにセレーツア島より、人は多いですからね」
アルシノエは澄ました顔で教えてくれた。
「海の底を流れる魔力の流の話よ。マンサーナ島を取り巻く魔力の流はおかしいそうね。小魚が魔力によって狂わせられて、小魚を追う大型魚まで回遊ルートを変えたわ」
「マンサーナ島の海底に何があるか、御存知ですか?」
アルシノエは呆れた顔をする。
「自分たちが何の上に住んでいるか知らないなんて、人間って呑気ね」
「否定はしませんが、何か知っていたら教えてくれませんか」
アルシノエが小首を傾げて、考える素振りをとる。
「そうね、ヨシキリ鮫の綺麗な鰭を持ってきたら、教えてあげてもいいわ」
(ヨシキリザメの鰭か。ヨシキリ鮫を倒すだけなら、魔法を連打すれば難しくない。だが、綺麗な鰭を手に入れるとなると、釣らなきゃ駄目だな。でも、ヨシキリ鮫って四mはあった気がする)
「すいません、ネズミ鮫辺りに、まかりませんか?」
アルシノエは眉を
「情けない男ね。でも、いいわ、ネズミ鮫でもいいから釣ってごらんなさい」
アルシノエが海中に消えたので、蟹籠を引き上げる。
蟹籠が二十籠で、百杯近くの毛蟹が獲れた。
(二十籠を使って約百杯か。多いのか少ないのか、わからないな)
セレーツア島の漁業組合に寄って蟹籠を返してから、ヴィーノの街に向かった、
夕方前に漁港に着いたので、蟹の仲買業者に声を懸ける。
「セレーツア島の毛蟹だ。買い取ってくれよ」
仲買業者の男は生け簀の仲の毛蟹を確認する。
「百には少し足りないようだな。全部纏めて、四十万リーネで、どうだ?」
「わかった。売却しよう」
毛蟹を売り、道具屋に再度、顔を出す。
道具屋の若主人が気の良い顔で対応してくれる。
「お帰り。その顔だと、まずまずの成果だったようだね」
「船の装備を新調したい。
道具屋の主人は商品在庫を確認しながら、答える。
「交換取り付け費用も含めて四十五万リーネだな。他には何か必要なものはある?」
「ネズミ鮫を獲るんだけど、アドバイスある?」
道具屋の主人はにこにこ顔で商品を勧める。
「アドバイスはないが、おあつらえ向きの竿がある。サメ釣り用の魔法の竿だ。サメのスタミナを奪う効果が通常の三倍だ。ただし。価格は三十万リーネ」
「高いよ。鮪用の竿の三倍だ」
道具屋の主人は笑顔で強く推奨する。
「だから、魔法の竿なんだって。サメ釣り漁師を始めるなら、これを持ってスタートしたほうがよいよ」
(釣れない竿で苦しむよりいいか。でも、スタミナを奪う効果が三倍って本当かな)
「わかった。買うよ」
「あと、巻き上げ機が必要だな。これも、三十万リーネだ。」
「なんのための魔法の竿だよ」
「竿を取られないための巻き上げ機だよ。巻き上げ機がないと、竿ごと海中にどぼんもありえるぞ」
「わかった、買うよ」
(何か、最近、収入より支出が多いな。賢者の石を巡る冒険に失敗したら、素直に鰹漁師に戻るか)
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