第23話 コンスタンス介入
転移門でマンサーナ島に帰った。メールをチェックする。
黒霊鉱がもう売れており、オークションから手数料を引かれた四十五万六千リーネが振り込まれていた。
(久々の纏まった収入だな。宝箱の引き上げは、儲かる時は儲かるけど、儲からない時はまるで儲からないからな)
コンスタンスの助手として潜入しているオーエンに、メールを出す。
内容は「動きがあったおって連絡する」だった。
港に行き、茨姫と合流した。
「久々に収入があったから、分配しよう。ガラクタが三千リーネ。黒い金属は黒霊鉱だった。黒霊鉱のインゴットが四十八万リーネで売れた」
茨姫は目を輝かせる。
「そんなに高く売れたんですか! そりゃあ、宝箱を引き上げたくなるわけだ」
「それでだ、浮力玉を十二個、使ったから、六万リーネ。オークション手数料が二万四千リーネだ。差し引きすると、三十九万九千リーネ。これを二で割るから、十九万九千五百リーネだ」
茨姫は素直に喜んだ。
「凄い! 一日で五万円近く儲かった計算になる」
「ここまで来るまで、損も出したけどな」
茨姫が思い出したのか、少しばかりげんなりする。
「そうか。ここ五日間、まともな収入がなかったですもんねえ。私は、まだいいけど、遊太さんは、もっと貰わなければ合いませんよね」
「分配の件はこれでいい。それで、俺は
茨姫は表情を曇らせて首を横に振った。
「謎の大量死だそうです。朝になったら浅蜊が大量に死んでいたと、漁師がぼやいていました」
「全く原因がわからないのか?」
「ただ、今朝の浜辺で薄いピンク色の油のようなものが海面に浮いていたのを見た漁師さんがいます」
(賢者の石を合成する廃液が、間違って海に流出した。結果、浅蜊が大量に死んだのか?)
「漁師さんは、錬金術師の仕業だろうって、かんかんでしたよ」
「海を綺麗に使いたい漁師にすれば頭に来るな」
茨姫が気を取り直して、明るく挨拶する。
「それじゃ、今日はこれでログアウトするんで、失礼します」
「じゃあ、また明日な」
茨姫と別れたあと、一度ログアウトした。
ピザを食べて、オーエンからのメールをチェックするために、再度ログインした。
郵便ポストからゲーム内のメールをチェックした。
オーエンから短いメールが来ていた。
『早朝二時に、釣りに出る振りをして、港を見張れ』
(早朝二時ね。ログインしているプレイヤーが減り始める時間帯か。何か動きがあるのか?)
遊太は指示に従うために仮眠を取り、起きてログインする。
夜のマンサーナ島は心地よい風が吹き、綺麗な月が出ていた。
港に行って、一時四十分に漁船を出す。魚群を探すが、近くに魚群はなかった。
(漁をしているように見せるには、港から離れなければいけないな)
ぎりぎり港が見張れる場所で、船を泊める。
船の操舵室の上にある二つの魔法のランプに光を灯すかどうか、迷った。
(ランプを点けずに漁をするのも不自然だな。漁船で隠れていると、疑われると危険かもしれん)
遊太は漁船のランプに光を灯した。
しばらく、港も見張る。高い位置に、ぼんやりと光が見えた。
双眼鏡で覗く。暗い海の上では何が光っているのか、推測でしかわからなかった。
(位置的には軍艦の見張り台の高さだな。こんな夜更けに出航か。まさか、合成した賢者の石をヴィーノの街に運んで、現実世界に持ち出す気か?)
疑っていると、港のほうで何か大きな影が動く場面が見えた。目を凝らして見る。
影はこっちに寄ってきていた。急ぎ舵を取る。
影の正体は六十五m級の軍艦だった。
軍艦が全速前進で遊太の漁船の百m横を通りすぎる。
遊太は揺れる魚船のバランスを見事にとった。
「こんな近くを通っていくなんて、危ないな」
「沈められなかっただけ、ありがたいと思うがね」
背後で声がする。紫の色のローブを着てペスト・マスクを被ったコンスタンスがいた。
「今は見張りが手薄だから、こうして姿だけを投影している」
「何だ? 俺に何か頼み事か? やってもいいが高く付くぞ」
コンスタンスは笑った。マスク越しにでもわかる、馬鹿にした笑いだった。
「そう、粋がるな。小物感が丸出しじゃぞ」
「じゃあ、何の用だ? 用もないのに会いに来ないだろう」
コンスタンスは上から目線で、さももったいつけて語る。
「
遊太はここぞとばかりに疑問をぶつけた。
「賢者の石はレジェンド・モンスターを呼ぶのか?」
コンスタンスは見えなくなりつつある軍艦を指差す。
「だとしたら、ああして、賢者の石を運べるとは思えんがな」
「では、何で、レジェンド・モンスターがマンサーナ島を襲った?」
コンスタンスは両手を広げて大袈裟に意見する。
「さあのう、お前さんは真理からは遠い場所にいる。だが、レジェンド・モンスター襲撃の謎は解いている」
「海底を流れる魔力の異常について指摘しているのか」
コンスタンスがおどけた調子で質問する。
「他に何がある? あるなら、知りたいのう」
「やはり、魔力の乱れがレジェンド・モンスターを――」
そこまで問いかけて別の可能性に気が付いた。
「そうか、そういうことか。賢者の石の合成の最終段階で、膨大な量の魔力が必要になるのか」
コンスタンスが謎懸け遊びするように指摘する。
「お主の言葉通りだと、今回もレジェンド・モンスターの襲撃がある。だが、今回は空からも海からも襲撃は、なかったぞ」
「前は一気に集めて一度に魔力を注ごうとした。結果。大きな乱れを引き起こしてレジェンド・モンスターを呼んだ」
コンスタンスはにやににやしながら訊く
「ほう、それで今度は、どう違う?」
(コンスタンスは俺に正解を教えたいのか。動機は不明だが、答えてやるよ。答え合わせはどの道必要だ)
「どこかに魔力を貯める容器を用意して、徐々に貯めて、ゆっくりと使った。だから、魔力の乱れが少なくて済んだ。乱れが少なかったから、レジェンド・モンスターが来なかったんだ」
コンスタンスは「うんうん」と頷き、注意する。
「なるほど、ありそうな話じゃな。だが、その理論には欠点がある」
「魔力を貯める器か? コンスタンスが使う錬金釜がいくら特殊でも、賢者の石が必要とする量の魔力は、貯められない」
コンスタンスは顔を前に突き出し、上機嫌に語る。
「小僧、鼠にしては、いいとこ行ったぞ。褒めてやろう」
「なら、褒美をくれよ」
コンスタンスは額に手をやり、高笑いをしてから語る。
「臆病なうえに、強欲と来たか、なかなかに、いい根性をしておるわ。いい情報を教えてやるわ。魚の血合いの部分に注目しろ。大金持ちになれるかもしれないぞ」
「知っているよ。賢者の石は、魚の血が原料なんだろ?」
コンスタンスは意地の悪い調子で質問する。
「ならば、訊こう。なぜ、マンサーナ島の魚からしか、出ないのだ?」
「それは」と言葉に詰まった。
コンスタンスは鼻で笑って馬鹿にした。
「何とまあ、愚かで未熟よのう。それで、わかった気でおるとはな」
「何だよ。思わせぶりだな。教えてくれよ」
コンスタンスが
「おっと、誰かが来たようだ。またな、小僧」
コンスタンスの姿は薄くなり、消えた。
(不思議な老婆だな。コンスタンスの目的が全くわからん)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます