第22話 魔力の乱れ
翌日には目鉢鮪祭りが終わっていた。魚群探査装置を海底探査装置に交換する。
茨姫と共に海に出た。宝箱の反応が出たと思って引き上げた。だが、ガラクタだった。そんなケースが三度に
「あれ、おかしいな? 宝箱の反応だと思ったんだけどなあ」
茨姫は呆れた顔で意見する。
「しっかりしてくださいよ。探査装置の画面がわかる人間は船長だけなんですからね」
画面をしっかりと確認する。真っ黒い画面に流れる黄色い帯を、じっと見つめる。
画面をじっと見ていると、何かが違う気がしてきた。
「ひょっとして、この画面がおかしいのかもしれない」
茨姫は渋い顔で批難する。
「嫌ですよ、機械のせいなんかにして」
「機械が故障したといいたいんじゃない。海底を流れる魔力の流が変わったんだ。ほら、潮の流れだって時間、日にち、季節で変わるだろう」
「太陽、風、海流で、場に漂う魔力に変化はありますよ。でも、変化するなら一定リズムで変わるのが定説です。船長が画面の変化を読みきれていないだけだと思いますよ」
「賢者の石が原因かもしれない。賢者の石を合成しようとすると、海底の魔力の流が変化するとしたら、どうだろう?」
茨姫は疑った顔で訊いてくる。
「魔力の流が変わった環境がレジェンド・モンスターを呼んだと主張するんですか?」
「可能性はないだろうか」
茨姫は冴えない表情で尋ねる。
「何とも断言できませんが、どうします? 島に戻って警告を発しますか?」
「止めておこう。確証がない。それに、下手に騒げばどうなる? 俺たちが余計な情報に気が付いたって、方々に知らせて廻るに等しい」
茨姫は目を大きく開けて、批難がましく発言する。
「じゃあ、島が破壊されている事態を黙って見ているんですか」
「残念だが、静観するのが俺たちには都合がいい」
茨姫は落胆を隠さなかった。
「そうかも知れませんが、何か、がっかりです」
「全ては俺の当て推量にすぎない。今はもっとデータを集めることが大事だ」
「わかりました。なら、作業を続けましょう」
そのあと夕方まで、宝箱を探す。
ガラクタと思ったものが宝箱だったり、宝箱だと思ったものがガラクタだったりした。海底探査装置の波形の読みが全く当らなくなった。
結果、引き上げられた宝箱は二個だった。
宝箱一個目はボロボロの紙束。辛うじて数字が読めるので、帳簿と推測できた。
宝箱二個目は、時の金貨が一枚。あと、何かわからない、一㎏の黒い金属インゴットが四本。
黒いインゴットがいくらになるかによるが、儲けは少なそうだった。
「目鉢鮪祭りの前後では波形が微妙に変わった。たださえ、波形の違いの差が小さかったから、海底探査装置の画面を見慣れない俺には違いが読みきれなくなった」
茨姫は暗い顔で意見する。
「島に戻ってみますか。島が無事なら、いいですけど」
島に帰ると、島では何事もなく生活が送られていた。
「おかしいな。レジェンド・モンスターが来ていない」
茨姫は気分が楽になったのか、明るい顔で告げる。
「やっぱり賢者の石を合成する時に魔力が乱れる説は、間違いだったんですよ」
「そうかなあ。海底を流れる魔力とレジェンド・モンスターの動きには関連があると推測したんだけどなあ」
引き上げたゴミをゴミ捨て場に捨てようとして、気が付いた。
ゴミ捨て場に通常の二十倍以上の
港に戻る。ヴィーノの街に転移門で飛ぶ前に茨姫に頼んだ。
「気になることがある。ゴミ捨て場に行ったら、浅蜊の貝殻が大量に捨てられていた。何があったか、聞いてきてほしい」
「浅蜊祭りなんて聞かないから、ちょっと気になりますね。いいです。調べておきますよ」
遊太は浮力玉を売る道具屋で訊く。
「海底で宝箱の引き上げをやっているんだ。同じように宝箱の引き上げをやっている奴がいるだろう。そいつらから、海底探査装置の映す宝箱の波形が変わったって、聞くかい?」
道具屋の店員は、あっさりとした態度で認めた。
「当りだね。何でも、海底探査装置が映す影が一定しないんだと。おかげで、引き上げのプロでも判断に困っているそうだ」
「海底を流れる魔力の
「何か大きな魔法が使われた時とか、レジェンド・モンスターが出た時だねえ。地元ではクラーケンが活性化するイベントが来る、って噂だぜ」
(魔力の流が変わるからレジェンド・モンスターが出るのではない。レジェンド・モンスターが出るから魔力の流が変わる? 道具屋の言う通りだと意味合いが違うぞ。真実はどっちだ?)
道具屋を出てガラクタを屑屋に売りに行く。屑屋の主人に訊く。
「景気はどうだい? 俺みたいにガラクタを売りに来る客は増えたかい?」
屑屋の主人は、素っ気なく告げる。
「まあまあ、だよ。引き上げ経験値ほしさにガラクタでも引き上げる連中はいつもいる」
「不思議だったけど、ここで買い取られた品って、どうなるんだ?」
「修理したり、綺麗にしたりして、オークションに出しているね。修理でスキルを上げたい奴は意外と多いのさ」
「スキル上げしたいやつなら、安くても仕事をする。誰が安くやるのかは企業秘密か?」
屑屋の主人は微笑んで話を打ち切った。
「わかっているねえ。さあ、秘密の話はここまでだ」
鍛冶屋で金を払い鑑定してもらうと、インゴットは黒霊鉱と判明した。
オークションをやっている建物に行く。オークション会場は天井がドーム型の円柱状の建物だった。広さが直径四百mとかなり大きい。造りは白い大理石なので、見た目も立派だった。
オークション会場にはオークション機能のほか、現実世界にアイテムを送る機能もあった。遊太はまだ使った経験がなかった。
出品受付カウンターに行く
ゆったりとした赤と白の制服を着た係員に、黒霊鉱のインゴットを見せる。
「これ、相場だと、いくらくらいですか?」
係員が魔法の鏡を操作して答える。
「一本で十五万リーネから二十万リーネで推移していますね。いくらで出します?」
「十六万リーネで出品しておいてください」
「わかりました。登録しておきます」
品物を預けて帰ろうとした。
掲示コーナーの前を通りかかった。掲示コーナーには縦二m、横六十㎝の魔法の鏡がいくつもあり、高価取引中の広告を映していた。
何気なく見ていると、錬金術の広告の眼の前で足が止まる。ここ、三週間あまりで右肩上がりに値段と取引量が上がっている草があった。
(満月草と大地の溶媒。それと、あまり需要がなかった錬金材料の値が上がっているな。賢者の石の合成には一般的な錬金術を必要だから、誰かが中身を知って手に入る一般材料を買い占めに走ったな)
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