第14話 洋上での会話

 翌日、ログインして港に行く。まぐろ釣りを見越して、鮪用の竿も二本用意しておく。


 港で待機している潮の理の団員に告げる。

かつお漁に行くから、作業員を乗せたい」


 団員は素っ気ない態度で、簡単に告げる。

「なら、鰹漁をお願いするよ。誰でも好きなのを、連れて行ってくれ」


 茨姫がいたので声を掛ける。

「よし、茨姫。今日も組もう。たくさん、鰹を釣ろうぜ」


 茨姫も愛想よく応じる。

「そうね、船長。昨日より多く釣りましょう」


 船を海に出してから、減速する。

「テッドからのメールで茨姫が仲間だと裏が取れた。それで、今日は、どうする? 馬鹿正直に鰹を狙うか。それとも昨日、誘っていたように、鮪を狙うか」


 茨姫は明るい顔で頼んだ。

「それなら、鮪をお願いしたいわ」


「なら、餌となるいわしを獲らないとな」

 鰯の魚群は、ほどなく見つかったので生け簀に確保する。


 魚群探知機とカモメから鮪を探す。

「あそこにカモメがいるわ」と茨姫が色めき立つ。


「何の魚群かはわからないが、行ってみるか」

 二人で竿を振って、鰯がついた餌を投げ入れる。


 数分ほど待つが、当たりが来ない。茨姫は水面を覗き込む。

「魚はいるようね。これ、魔法でバーンとかやったら、駄目なのかしら?」


「掲示板情報によると駄目だね。どんな魔法でも、魔法で魚を獲ろうとすると、魚が傷付いて、著しく価値が落ちるそうだ。肥料にするならまだしも、高級魚として売りたいなら、釣り竿で釣るしかないそうだ」


「そうか、楽はできないのね」

 遊太の竿がしなった。遊太は竿を左右に振って、魚のスタミナを奪う。


 気の早い茨姫は、もう釣り竿をしまって、もりを準備していた。

 遊太は腕に力を込めて、ゆっくりリールを巻く。竿がミシミシと音を立てる。


 遊太は手応えから、相手は一mほどの大きさと判断した。

「銛は必要ない。一気に引き上げるから、そこの釣り用スティックで魚の頭を叩く準備をしてくれ」


「わかったわ」と茨姫が魚の頭を叩くスティックを準備する。

「せえの!」で、腕に力を込めて体全体で竿を上げる。


 全長一mのぶりが揚がった。

 茨姫が釣り用スティックで鰤の頭を叩くと鰤は動かなくなった。


 茨姫は上機嫌で叫んだ。

「やったわ、大物よ」

「おいおい、狙いは鮪じゃなかったのか?」


 茨姫はきょとんとした顔で尋ねてくる。

「これ、鮪でしょ?」


「こいつは鰤だ。鮪じゃない。名前表示をONにして、辞書で確認してみろよ」

 茨姫は鰤を触ってから、魔法の辞書で確認する。


 茨姫は驚いた。

「本当だ。これ、鮪じゃないわ。鰤だわ。切り身になっていないから、わからなかった」


 遊太は鰤を生け簀に入れて訊く。

「で、どうなんだ、鰤でいいのか? 鰤でいいなら、ここで釣るぞ?」


 茨姫は考え込む。

「でも、テッドさんからは鮪を釣れって指示なのよね」

「鰤と鮪じゃ、大きさが全然、違うからな。味も価格も違うけど」


 茨姫は思案する顔で決断する。

「大きさが欲しいなら、鰤じゃ足りないわよね。よし、ここは、大きな鮪をとことん狙いましょう」


 気になったので確認しておく。

「待て。マンサーナ沖には、黒鮪、目鉢鮪、黄肌鮪、髭長鮪、カジキ鮪がいるぞ。正確には、カジキ鮪は鮪ではないが。種類の指定は、ないんだな?」


 茨姫は困惑顔で意見する。

「鮪って、そんなに種類があるの? 回転寿司屋で廻っている鮪でいいよ」


「回転寿司屋によるが、全ての鮪が回っている状況があるぞ」

 茨姫は困った顔で決断した。


「わかんないから、とりあえず、鮪と名が付けば何でもいいよ」

「三mの黒鮪と一mに満たない髭長鮪なら大きさもさることながら、値段が十倍以上も違うんだが、大丈夫なのか」


 茨姫が冴えない顔で語る。

「値段は関係ないわ。一m以上の鮪を手に入れろ、って指令だからね」


「なら、いいけど」

(ちょっと不安だな)


 鰤の魚群から離れて、カモメを探しに懸かる。

 カモメを探して船を走らせる。双眼鏡を覗きながら、茨姫が話し掛けてきた。


「船長は、八百万を始めて長いんですか?」

「十箇月くらいだよ。船を手に入れる前は、安全な山で薬草を採取と霊水を汲んで、小銭を稼いでいた」


 茨姫が気の良い顔で質問する。

「初心者がよくやってお金を稼ぐ仕事ですね。戦闘スキルは、その時に上げたんですか?」


「上げたけど対人戦闘は向いてないって知って、挫折した。そしたら、まあ、色々あって、船を手に入れたから、最近は漁師をやっている」


 茨姫が楽し気に語る。

「何でも慣れですよ。対人戦だってやれば楽しいですよ。海賊との戦いなんて、はらはらものですよ」


「また、そのうち、鍛えるかもしれないけど。今は、漁師でいいや。手に入れた船の元を取らないと」


 魚群探知機に反応があった方角を教える。

「反応ありだ。北東の方角だ。カモメは見えないか?」


「カモメが出ました。すぐに行きましょう」

 船で魚群の行き先を先周りして、竿を準備して待ち構える。


 海面にオキアミ団子を撒き、鰯の付いた針を垂らす。

 待つこと数分で大きな当りが来た。当りは、今までの中で最高のものだった。


 竿が大きく撓る。力を抜けば海に引っ張られそうになる。

「これは、でかいぞ、百四十㎝以上はある」


 茨姫は喜び応援する。

「それは期待できるわ。頑張って、船長」


 リールをゆっくりと巻き、じりじりと獲物を船の側に引き寄せる。

「銛だ。銛の準備をしてくれ。鮪の頭に銛を打ち込むんだ」


「了解よ。船長」と茨姫が威勢よく応じる。

 鮪の大きな顔が海面に現れる。すぐにでも、銛を打ち込もうとする茨姫に注意する。


「慌てなくていい。もっと近づいてから、確実に仕留めるんだ」

 茨姫が緊迫した顔で頷いた。


 鮪が水飛沫を上げて、船から逃げようとする。

 逃がすまいと、足を踏ん張り、リールを巻く。


 鮪との距離が三mを切ったところで、銛が発射される。

 銛は見事に鮪の頭に命中した。鮪が動かなくなった。


「よし、獲れたぞ。さて、なに鮪だ」

 鮪を引き上げて、魔法の辞書で確認する。『目鉢鮪』との表記があった。


 目鉢鮪の大きさは百六十㎝。目鉢鮪にしては、大きさは、小振りだった。

「一m以上の鮪の条件を満たした。これを、どうするんだ?」


 鮪をしげしげと見ながら茨姫が指示する

「ヴィーノの街に運んで料理屋ヒッコリに売れとの指示よ」


「鮪を直送で、料理屋に持ち込むのか? 鮪一尾を消費するなんて、大きな料理屋だな」

「ヒッコリの場所は、わかるけど。私も初めて行くわ。とりあえず、行ってみましょう」

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