第13話 マンサーナ島の復旧

 島の転移門から建築関係のクランの人間がやってくる。

 資材は重たいので、ヴィーノの街から貨物船で運ばれた。


 鯖の煮つけと鰯のつみれ汁の恩恵効果がほしいとあり、遊太たち漁師は鰯や鯖を獲ってきては水揚げする。水産加工場と魚市場が機能していない。なので、残った魚はうしおの理が買い上げて、燻製にしていた。


 魚を加工する潮の理のメンバーの話が聞こえてくる。

 うんざりした顔で男がぼやく。

「ああ、面倒くさい。早く水産加工場の機械が使えるようにならないかな」


 別の男が優しい顔で宥める

「もう少しの辛抱だよ。機械技師が来ているんだから、すぐに直るさ」


(井戸を復旧させて淡水を確保したら、水産加工場の修理か。早く金を稼げるようにして債務を返済したい、ってとこなんだろうな)


 翌日にログインすると、島の掲示板に『水産加工場一部復旧』のニュースが載っていた。

(やけに早く直ったな。これは、夜通し作業させたな)


 港に行くと、潮の理の紋章が入った服を着た男の団員がいた。

 団員は感じのよい顔で尋ねてくる。


「ちょっと、いいか? 漁師だろう。鰹漁に出る気はないか?」

「水産加工場が一部復旧したから、鰹節を生産して流通に載せようって話ですか?」


「そうだよ。付加価値のついた鰹節を安定供給して、収入を上げようって方針なんだ」

「なら、原料の鰹を獲ってきますよ」


 団員は少しばかり申し訳なさそうな顔をする。

「それでなんだけど、潮の理の依頼を受けて鰹漁をやるには条件がある」


(何だ? 鰹漁に条件だと。まさか、課税か?)

「何ですか、その条件って? 港の使用料を課すとか、鰹に課税するんですか? 課税とか使用料とかは嬉しくないな」


「そうじゃない。鰹漁には我々が認定した作業補助員を雇ってほしいんだ。鰹以外なら問題ない」

(これは、あれか、鰹の漁を監視させたいのか。オルテガ・バンクの意向かな?)


「そんな条件なんて前はなかったですよ」

 団員は無理な要求をしているのがわかっているのか、やんわりと頼む。


「今日からできた。もっとも、マンサーナ島で鰹を売らないなら構わない。ヴィーノの街まで売りに行くのなら雇う必要はないよ」


(怪しいな。怪しい動きだな。でも、船を取られるわけでなし、乗せてみるか)

「わかりました。利益は五分五分でいいなら、乗せますよ」


 団員はほっとした顔で意気込む。

「そうか、了承してくれると助かる。互いに島のためにがんばろう」


 作業員が控えている場所に行く。

 何か訴えかけるような顔で、遊太に視線を向けてくる女性がいた。女性の種族は人間で十八くらい。身長は百五十五㎝、顔は幼さが牡残る童顔の丸顔。髪は黒く、漁師が好んできるシャツとズボンを穿いていた。


「俺は遊太。何か用?」

 女性ははっきりした口調で頼んできた。


「私はいばらひめ。優太さんの船に乗りたいの。賃金は少なくてもいい」

(茨姫は俺を知っているようだが。俺は知らない。どこかで会っただろうか)


「いいぜ。なら、一緒に漁に出よう」

「よし、そうこなくっちゃ」


 相棒が決まったので、船を出して乗せる。

「漁の経験はあるのか?」


 茨姫は明るい顔で申告した。

「鰯漁を二回と鮪漁を一回、手伝った経験があるわ。もっとも、鮪は釣れなかったけど」


「そうか、なら、俺も似たようなもんだな。よろしく頼むよ」

 船が港から出ると、茨姫が好意的な態度で話し掛けくる。


「ねえ、遊太さんってテッドさんの仲間でしょう?」

「はい」と答えようとして思い留まる。


(待てよ。茨姫の素性がわからないから、無闇にテッドの関係を教えるのはよろしくないな)


 遊太は素っ気ない態度で答えた。

「テッドと名乗るブッシュは知っているけど、それほど親しくはないよ」


「そうなの? テッドさんから、仲間だって聞いたわよ」

「何かの間違いだろう」


 遊太は鰯を餌に鰹を取る。まだ、午前中だが船をマンサーナ島に戻す。

「あれ、船長? まだ、陽は高いよ」


「手紙を出す用事を忘れていた、出したらすぐ戻ってくる」

 遊太は島のポストの前に行く。ゲーム内の機能を利用して電子メールをテッドに送る。


『茨姫と名乗る女性が接触してきた。茨姫はテッドの仲間か?』

 メールを送って魚船に戻る。魚船を海に戻すと、茨姫が明るい顔で提案してくる。


「船長。鰹ばかり獲っていたら、飽きたわ。もっとでかい魚を釣らない?」

 茨姫の提案には何か目的があると思った。


「いいのか? お前の仕事は俺がきちんと鰹漁をするのかを見張るのも目的だろう?」


 茨姫は正直に白状した、

「鰹漁に出た漁師がきちんと鰹を狙っているか監視せよと命令されていたわ。だけど、間違って釣れた大型魚の扱いについては、指示を受けていないのよ」


「カモメの下にいるのが鰹とは限らないからな」

 茨姫は狙う魚種を変更するように迫る。


「そういうことにしてさ」

「でも、今日は駄目だ。今日は鰹を獲る」


 茨姫はげんなりした顔で、不満を漏らす。

「もう、本当に固いな、船長は」


 午後も鰹漁を行う。素人漁師の二人だが、一日で八十尾の鰹が獲れた。

 水産加工場に鰹を納品しに行く。今日の鰹の価格は千七百リーネだった。


 十三万六千リーネの水揚げとなる。二人なので、六万八千リーネずつ分ける。

「ほら、これが茨姫の取り分だ」


 茨姫は驚いた顔をして申し出る。

「いいの? 船は遊太さんのものだし、鰹だって遊太さんが多く釣ったよ」


「いいんだ。こういう時はきちんと半分にするものだ」

 茨姫はにこにこ顔で喜んだ。


「なら、有難くいただくわ。いやあ、でも鰹漁って、儲かるんだな」

 ゲーム内のポストから手紙を確認すると一通手紙が来ていた。


 差出人はテッドからで「茨姫は仲間だ」とするものだった。添付されていた画像を確認するが、茨姫で間違いなかった。

(本当にテッドの仲間だったか。明日は茨姫に付き合ってやるか)

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