第11話 義経の提案

 他のプレイヤーと共に救助活動すると、酒場で応援を求める声があった。

 酒場の近くでは、重機の代わりに二足歩行する全長三mの鉄製ゴーレムが稼動していた。


 ゴーレムと一緒に瓦礫(がれき)を撤去していると。誰かが声を上げる。

「おーい、誰か漁船持ちはいないかー」

「あるけど、どうした?」


いわしを獲ってきてくれ。鰯のつみれ汁の恩恵効果がほしい。復旧作業の助けになる」


(ゴーレムがないから、漁で役に立つか)

「わかった。獲ってきてやるよ」


 漁港の一部が使えた。遊太は漁船を出し、魚群を探した。

 クラーケンが来た影響か、いつもなら簡単に見つかる魚群が見つからなかった。


 それでも、四十分を掛けて探すと魚群が見つかった。

(鰯の魚群であってくれよ)


 網を投げて引き上げる。二百尾の鰯が揚がった。生け簀に鰯を入れて港に帰る。

 港では転移門が使えるようになり、大勢のプレイヤーが救援に駆けつけていた。


「鰯を獲ってきたぞー」

 遊太が船を港に着けると、大八車がやってきたので、鰯を積む。


 鰯は港に急ごしらえで作られた調理場でつみれ汁に変わっていった。

 もう一度、漁に行こうとすると、別の漁船が鰯を積んで帰ってきた。


(他にも漁に出ている魚船もあるなら、いいか)

 遊太は船を邪魔にならない場所に移動させて、生け簀を洗っていた。


 港を見ると、ローサの姿が見えた。

 ローサは割烹着を着て、談笑しながら、つみれ汁を作っていた。


(災害の中にも笑顔ありか)

 誰かが大きな声で叫ぶ。


「海賊だ! 海賊が来たぞー」

 遠目には見えなかった。望遠鏡で海を見ている冒険者に尋ねる。


「海賊が来たって、本当か?」

「本当だ。海賊の軍艦が一隻、こっちに向かっている。あれは黒船海賊団の船だ」


 しばらく眺めていた。晴天の中、黒い帆をあげて近づく軍艦が見えた。

 港を振り返ると、プレイヤーは八十人以上いる。


 負けるとは思えない。だが、海賊が勝算もなしに仕掛けてくるとは思えなかった。

 大木戸が港に走ってきて指示を出した。


「対砲撃戦用意。大砲を出せる奴は、大砲を出してくれ」

 大木戸の指示でプレイヤーが大砲を準備する。


 大砲を所持しているプレイヤーは多くなかった、十門しか港に並ばなかった。

(まずいな。敵の軍艦は八インチ砲が十四門。こちらは五インチ砲が主力で十門しかない。砲撃戦になったら、負けるぞ)


 ピリピリとした空気が流れる。戦闘に自信のないプレイヤーは、そっと港から逃げ出す。

 海賊船が一㎞の距離に来ると停泊した。


 望遠鏡を借りると、海賊船から全長四mの手漕ぎボートが下りてくる光景が見えた。

 手漕ぎボートだけが港に向かってきた。


 砲撃の射程に入ると、手漕ぎボートから白い旗があがる。

 港にいたプレイヤーは全員が顔を見合わせた。


 潮の理のメンバーが大木戸に聞く。

「撃ちますか。大木戸さん?」

「撃つな。下手に撃ったら危険だ」


 手漕ぎボートが近づいてくる。手漕ぎボートの先頭には義経が乗っていた。

 義経が笑顔で挨拶する。


「どうも、皆様、こんにちは。この度は大変に痛ましい事態に遭ったこと、心よりお悔やみ申し上げます」


 大木戸が鋭い視線で睨む。

「何をしに来たんだ? 海賊が壊れた倉庫の宝を狙って来たのか?」


 義経は優雅に人差し指を立てて軽く振る。

「チッチッチッ、それは違う。俺たちは海賊であって、火事場泥棒ではない。今日は、お見舞いと商売の話がしたくて、やって来た。村上の大将に会わせてくれ」


「俺なら、ここだ」

 声のした方向に視線が行く。白髪を後ろに結んだ、身長二mの大男の村上が立っていた。


 村上は簡単な革鎧に革の半ズボンを穿いている。村上は傷のある、いかつい顔をしており、容貌からいかにも海の男といった顔をしていた。


 義経が芝居がかった口調で語り掛ける。

「この度は、とんだ災難に遭われまして、心痛の限りです」


 村上は、むすっとした顔で訊く。

「いいから、用件を言え。遊びに来たわけじゃないんだろう」

「話が早くていい。このマンサーナ島を我が黒船海賊団の拠点にしたい」


 義経の言葉に港がどよめき、村上が不快感をあらわにする。

 義経は村上の表情を確認してから、言葉を続ける。


「もちろん、ただとは言わない。武力で明け渡せとも脅さない。単刀直入に申し上げる。島の支配権を永続的に売ってくれ。価格は四億リーネだ」


(ゲームの島ひとつに一億円だと? 何を考えているんだ?)

 義経の言葉に港にいたプレイヤーがざわめく。


 大木戸は明らかに狼狽うろたえていた。

「大将、四億リーネって、どうします?」


 義経は強気で交渉を進める。

「どうだ? 良い話でしょう。このぶっ壊れた島に、四億リーネを出そうって申し出ているんだ。クランの団員で金を分けて、クランを解散したっていい」


「クランが解散って……」大木戸は青い顔で村上を見る。

 村上はむすっとした顔で告げる。


「海賊がどれほど俺たちから奪っていったと思っているんだ。海賊とは交渉しない」

 義経はどこまでも余裕を滲ませて話す。


「いいんですか? そんなに強がって。潮の理には島を復旧させるだけの財政負担が、できるんですか?」


 村上は険しい顔で言い放つ。

「海賊風情に心配してもらうほど落ちぶれてはいない」


 義経は厳しい顔で言い返す。

「あら、まあ、嫌われたものだ。襲撃は今回だけとは限らない。また、あるかもしれないですよ」


 そこで義経は、見下すように発言する。

「それに、俺はね、知っているんですよ」


「何をだ」と村上が怒気をはらんだ声で訊く。

 義経は思わせぶりな態度で引く。


「ここじゃあ、ちょっとね。色んな人が聞いている。じゃあ、考えておいてください。近々返事を聞きに再び参上します」


 義経の部下がボートを反転させて、軍艦に戻って行った。

 遊太は気になったので、ローサを探した。


 ローサが非常に苦い顔をして、義経を見送っていた。

(ひょっとして、今回のレジェンド・モンスターの襲撃について、鏡の騎士団は関与しているのか? 疑惑が尽きないが、尋いても、答えてもらえないんだろうな)


義経が帰ると島は静かになった。復旧作業は続くが、村上は現場から姿を消した。

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