【3】アインツとエルフ
「ナインワン!2人は!?」
時空管制塔に到着すると、すでに入り口で待っていたナインワンに、いきなり
「お、おい。どうしたんだよ!?」
「しっ!声が大きい」
「あ、ごめん」
「まず、2人は現在隔離病棟にて治療中ではあるが、命には別状はないそうだ」
「ああ…良かったぁ」
「で、早速だが、今回の失態については、他の時空監視官に知られないようにしないといけない。何しろ、この563年間で初の失敗だ。しかも、任務に当たっていたのは、時空監視官の中でも特に優秀な特級監視記録官の4人だ。他の者が知れば、どれほどの混乱を招くかは…言うまでもない」
“ それに ” と、ナインワンは少しの間言い
「ん?何それ?」
「これは今まで私たち時空監視官は1度として携帯していなかったが、銃…というものだ」
「じゅ…じゅう?それって、過去の犯罪現場で見た物と同じ…かな?それは、どんな使い方するの?」
————22————
「これは、人に対して警戒させ、
「あや?あやっ!?殺めるって!!!どういうことだよ!??」
当たり前のことなのだが、この時代において犯罪もなければ、殺人も存在しない。銃も文献でしか見たことがなく、過去に
「今回、初めて銃の携帯を義務付けられた。これは上層部からの判断であり、絶対服従せよとのことだ。途中まで通信できていた内容によると、それほど、緊迫した状況であったようだ」
「ちょ、ちょっと待って!わたしたちは犯罪を監視するだけで、記録するだけだろう!?それを、あ、殺めるとか!どうやったらそんな突飛な話になるの!!!」
「なら、この通信記録をお前も見るといい。かなり衝撃的だから、注意しろ」
ナインワンに手招きされるまま、おでことおでこを付けると———恐ろしく
————23————
——*——*——*——*——*——
[西暦2028年8月19日 日本国東京都内某所]
暗闇の中、高精度暗視スコープ(暗闇であっても、明るく見える)によって少しだけ明度の落ちた映像が流れる。
場所は生物研究所、時間は深夜1時を回ったところのようだ。
遠くでは、様々な動物たちの鳴き声が聞こえる。真っ暗な廊下を、ゆっくり慎重に進んでいく。
不意に映像が横を向くと、そこに映るのはエルフ。映像の主は、アインツに違いない。
エルフが無言で
すると、分かれて90秒ほど経過したところで、いきなり遠くから何者かの叫び声が聞こえる。
アインツはすぐにエルフに通信するも、エルフの方では “何も聞こえなかった” との返事が返ってくる。
と、今度は別の方から叫び声が入る。通信機からだ。エルフではない、もう1班の合同チームからに違いない。
————24————
アインツは叫び声を確認直後、別チームの2人が陣を敷いていた場所に駆けつける———も、そこに2人の姿はなく、壁には何かで引っ
次にアインツはエルフと通信を試みるも、今度はエルフからも応答なし。
そうして、エルフの現在地が示された場所が近づくと、暗闇の中真っ黒な
「120000011!大丈夫か!?くっそ!返事がない!この化け物が!」
と叫びながら、アインツは真っ黒いものに向けてイコライザーを向けるも、引き金を引くこともなく、ぶるぶると震えながら手から落としてしまう。
アインツはそのままうずくまってしまったのか、映像は地面を映しているだけになってしまった。
そうして、地面を映していた映像が、間もなく傾き壁を映し出すと———そこには黒い化け物ではない、別の誰かの影が映し出される。
うずくまるアインツを超え、その影が黒い化け物の方に向かっていくと、次の瞬間———
ギャァァァァァァァァァァ!!!
と、
それから1分ほど経過したところで、再び映像が再開される。
黒い化け物から吐き出されたであろうエルフの傷ついた体を、アインツの元に引き
そして、今度こそ映像は終了した。
——*——*——*——*——*——
————25————
「こ…これって…」
「ああ。未知の化け物が出現したようだ。だが、その化け物も不思議だが…」
と、ナインワンは頭を抱えると、わたしが懸念していた言葉を
「この手の主は、2人を救ったのか?それとも…」
「とにかく、事件の概要だけしっかり頭に叩き込んでおけ」
「へ?」
「何を気の抜けた顔をしている、11111112よ。我々で、再びこの時代に行き、チーム4人を救出するぞ」
「………はい???」
「お前も友人2人を助けたいだろう?」
「いや、もちろんそうだけど!同じ事件に2度、時空監視官が派遣されるって話、聞いたことないよ?可能なの!?」
「前例はない。確かに意識がある状態で、彼らに遭遇する可能性が0じゃない分、多少リスクがあるが…ま、大丈夫だろう」
「大丈夫だろうって…今日のナインワン、なんか変」
「私を信じろ、ツー」
いつも通りの呆れ顔を向けると、ナインワンは “ 準備があるから ” とどこかへ行ってしまったが、心なしかその歩みが弾んでいた気がする。
って、それより…!!!
「ツーって呼んでくれた!あのナインワンが!」
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