第7話
第7話 この先は天国か、地獄か
私は今、白狼によってマンションの外に連れ出され、どこかを走っている。
傷だらけだった身体は翼の力のおかげで完全に治り、健康体そのものとなった。
しかし、心は決して健康とは言えなかった。白狼はそれでも進み続ける。どんどんと遠くなり、今は見えなくなったマンションを振り返る。
何もないその景色は空虚に映った。ふと視線を上に上げると、そこには翼と最初に出会った頃のような満天の星空があった。私はこれからどうしていけばいいのだろうか。教えてよ、翼。
翼は言った、『比翼の鳥のようだ』と。本当にその通りだ。片割れが居なければ何もすることのできない半人前だ。そして白狼は止まる。
「どうしたの?」
白狼は何も言わずに私は背から下ろす。下ろされた私はその場に立ち尽くす。そして白狼は鼻先で私をつつくと離れる。そして一瞬で姿を消したのだった。
「え!?待って!出て来てよ!」
私は心で何度も叫ぶ、「一人にしないで!」と…
「俺はまだ生きたかった。」
ふいに耳に声が入ってきた。その声は絶望に溢れる声音だった。私はその声のする方角へ歩いた。何もない獣道を歩き続けていると、視界が晴れた。そこでは、一人の男が橋の欄干の上に立っていた。
「ねぇ!」
私は思わず声をかけてしまった。男はこちらを振り返る。
「なんだよ!邪魔しないでくれよ!」
男の姿は、過去の自分と重なった。私は首のペンダントを強く握る。この後、何て声をかけていいのか分からない。しかし、そこで翼の声が甦る。
「別に、目の前で死なれるのが迷惑なだけ」
「なっ!?」
「なんで死にたいの?」
「関係ないだろ!お前誰だよ!」
男は激昂し、感情を剥き出しにする。
「人に名前を聞くときはそっちから名乗るもんじゃないの?」
「なんだよ!本当にむかつく!」
男はキーキーと騒ぎ立てる。分かるよ、その気持ち。
「で。名前は?」
「…
「蓮ね、私は…」私が名乗る名前は決めている。あいつの名前を騙るんだ。だって私とあいつは『比翼の鳥』なのだから。
この先、どんなことが起きるか分からない。でもまずは、私はこの人を助けよう、それが私の第一歩なのだから。
「私の名前は“凛空”だよ。」
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