第6話 一喜一憂(3)

 私たちはあっという間に当初の目的であった4階へとたどり着く。4階はまだ火の手が消えておらず、あちらこちらが燃え盛っていた。



「りくーッ!」



私は必死に呼びかけるが返事は無い。私たちは炎を飛び越えながら階層を駆け回る。



「ったく、なんで来たんだよ。」



そうぶっきらぼうな“声”が聞こえた。私たちは立ち止まる。今聞こえた声はの声だ?あたりをきょろきょろと見回す。すると炎に囲まれた一カ所に大きな柱が倒れているのを発見した。その柱に凛空は挟まれていた。



「凛空!」



「そいつは…そうか。できたんだな。」



凛空は私が乗る白狼を見るとそう呟く。



「待ってて、今助けるから。」



私は柱を持ち上げようと手を地面との隙間に入れる。柱に触れるとまたもやジュウッと高温で手が焼ける。痛みはすぐさま押し寄せる。しかし、私は決して柱を離さない。



「やめろ!」



「やめない!お願い手伝って」



私は白狼に視線を向ける。白狼はそのまま隙間に鼻先を入れる。そして柱が少し浮く。



「今、早く出て!」



凛空は這いつくばりながらなんとか柱の下から脱出する。私たちは脱出したのを確認してから柱を下ろす。



「すまない。」



「そこはありがとう、でしょ」



「そうだな、ありがとう。」



凛空はそのまま上半身だけ起こす。下半身は潰されており、見るに耐えない容姿へと変貌してしまっていた。



「傷だらけだ。待ってろ。今治す。」



そう言って凛空は私の肩に触れる。すると、身体が熱くなり、そして痒くなってくる。



「なにこれ、痒いっ!?」



「俺の治す力に即効性はないんだ。細胞を活性化させて成長させている。痒いのはその副作用だ。」



「そうなんだ、ってか先に凛空、その足を…」



「ごめんな。」



「え。」



「翼をこんな目に合わせちゃって。こんな残酷な世界に連れて来てしまって。」



凛空は黄昏ながら、遠い場所を見つめる。いつの間にか、周りはまた半球状の影に囲まれていた。



「なによ、それ。」



「翼、俺…君に黙っていたことがある。」



「今は良いから!早く脱出しよう。話は帰るときに聞くから!」



「俺は、いや…私は」



凛空は一人称を変え、語る。



「私は、君に嘘をついた。」



「いいから!何度も嘘ついていてもいいから!早く出よ…」



そこで気付いた、凛空の綺麗だった藍色の瞳は曇っていた。



「私が君を助けたのは偶然じゃない。」



「え」



「君を見ていた。あの時から、ずっと…」



「あの時?」



「君のお母さんが亡くなった日から。」



「!?」



「私は君のお母さんを見てた。この世界に来てからずっと。私の世界では居なくなってしまった彼女をずっと…」



「どう…いう…?」



「私の本当の名はね、君と同じ『中川翼』っていうんだ。意味わかる?私は別の世界の君なんだ。」



「は?!どういうこと!?別の世界って」



「私はこの世界に逃げてきた。翼の夢っているのは多分、私とリンクしたせいで見たものだと思う。私の世界のお母さんも死んでしまったんだ。神様と結婚したせいで殺されたんだ。そしてお父さんが私を逃がすためにこの世界に送り込んだの。」



信じられない話の連続でついて行くのがやっとだ。凛空が別の世界の私?お母さんが殺された?頭は混乱するばかりだ。



「それで、私はこの世界のお母さんを探してた。そして見つけた。でも、その時お母さんは首を吊るところだった。また私はお母さんを失った。」



得体のしれない感情が私の中へ流れ込み、私の頬に静かな温もりが流れた。

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