第6話 一喜一憂(2)

 絶体絶命の瞬間、人間は脳の回転が限界を超えると前に学んだことがある。今私はを実感した。


目の前から迫る炎。それがゆっくりとこちらに近づいてきている。注意していたはずなのに、これが火事現場で密閉空間が開放され、空気が一気に入り込んだことで起きる現象『バックドラフト』だ。またも現れた“死”が急速に迫ってくる。私はギュッと目をつぶる。



(凛空ッ!)



いったい、いつ炎は私を包み込んでしまうのだろうか…待てど待てども炎が身を焦がす時は来ない。



ゆっくりと目を開ける。



そこには迫り来る炎は存在しなかった。炎が消えた先には大きな部屋があり、崩れた瓦礫があちらこちらに散らばっていた。



「助…かった…?」



なぜ急に炎が消えたの?私はゆっくりと入口に足を運び、部屋の入口から奥を窃視する。部屋には誰もいなかった。もしかして凛空が居るかもと思ったのに…部屋を周回しようと部屋の中へ侵入した。更なる上層階へ行くための道を探したが見つけることはできなかった。



パチッ、急に背後から物音が鳴り、慌てて振り返る。そこには大きな揺らぐ黒い足が踏み出されていた。



 三度現れた影狼は、その大きな深紅の瞳で私を見ている。私は急に現れた獣に身体が硬直してしまう。てっきり2匹とも消えたものだと思っていたのに…でも、先ほどの炎が消えた原因はこいつなんじゃ。私は勇気を振り絞って一歩踏み出した。



「君が助けてくれたの?」



影狼は動かない、ただ一点に私を見続けている。



「お願い、助けて。まだ凛空がここにいるかもしれないの!」



私は必死に思いをぶつける。本当に現実ここと関わりがあるのなら凛空が言っていたのだ。こいつは私から生まれ、意志が動かしているのだと!



「助けて…」



私は影狼に触れられる距離まで近づき手を伸ばす。伸ばした手は触れる事の出来なかった影に触れた。瞬間影が飛散し、影狼の本当の姿があらわとなる。美しい白い毛並み、鋭い深紅の目は優しげな蒼色の瞳へと変わった。



 白狼は触れた私の手に顔をすり寄せる。私はゆっくりと白狼の頭を撫でた。



「ありがとう」



私は感慨深さに涙が流れそうになる気持ちを振り払う。



「行こう!凛空を探すんだ」



私は白狼にまたがり、凛空の捜索を再開する。



「ワァォォォン」



白露は一度力強い遠吠えをあげ、動き出す。白狼の一蹴りは大きく、ものすごいスピードで部屋から飛び出し、壁を蹴り上げ吹き抜けた天井を昇る。まるで風と一体となったような気分に私は爽快感を感じた。

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