第6話

第6話 一喜一憂(1)

「緊急、重傷者2名、マンション内から脱出、1名は意識不明だが命に別状なし、もう一名は体の数カ所に火傷、意識は朦朧としている模様、直ちに救急搬送します。」



いつの間にか、気を失っていたようで私は救急隊員たちによって救助され、担架の上に寝かされていた。起き上がると一人の男性隊員が話しかけてくる。



「気が付いた、良かった。安静にしていて、生きていてよかった…」



男性は本当に嬉しそうに私の無事を喜んでくれた。



「あの、もう一人の…」



「ああ、大丈夫彼も生きている。まだ意識が回復していないからこれから病院へ搬送するところだよ」



“生きている“、それが聞けただけで私の胸には喜びの感情が湧いてくる。ついに私は助けられたのだ!



「大丈夫?」



男性は心配そうに声をかけてくる。私の目には大量の涙が溢れていた。



「はい、はい大丈夫です。うれし涙なので」



私の言葉に男性は一瞬きょとんとしたが、すぐに納得がいった顔になり言う。



「うん、本当に生きていてよかった。」



そして男性は別の隊員に連れていかれ、私はその場に残される形となった。そして気付く、



“凛空は?”



慌てて周囲を見回すがやはり凛空の姿は無い。ちょうど近くを通りかかった救急隊員に聞く。



「すみません、マンションから髪が長くて、細い中性的な人は脱出できていますか?」



「い、いえ。マンションから出てきたのはあなた達が最後のはずです。」



その言葉に私は血の気が引いた。私たちが最後…じゃあ凛空は出入口から出ていない。上空から脱出した?いやありえない。だってあーちゃんは私と共にいたのだから。



 もし、もしも私の予想が正しいのなら。





私はすぐに担架から飛び起き、マンションへ走り出す。私が呼び止めた救急隊員は急な出来事に反応できず、茫然と私を見送ったが、しばらくすると我に返った。



「ちょ、ちょっと待ってください!待ちなさい!」



私は制止の声を聞かず、マンションの入り口を目指す。マンションの入り口付近では消防車から延びるホースで消火活動を行っていた。



その脇を走り抜け私はマンションへ突入した。後ろから悲鳴と困惑した叫び声が流れてきたが、追いかけてくる人物はいなかった。



 マンションのロビーは既に消化され、黒く焦げた物体がそこら中に転がっているだけで、あーちゃんたちの姿は無かった。また夢だったのかとも思ったが、地面には落下した際にできたクレーターが残されており、あれが現実だったことが証明されていた。



「いったいどこに…」



辺りを見回すが、どこにも彼らの姿は無い。とにかく今は凛空を探さないと。



私は凛空と別れる事となった4階へ向かうべく、上層階へ行ける道を探す。瓦礫の塊をしらみつぶしに回り階段を見つけるが、階段は中腹で崩壊しそこから先へ行くことはできなかった。



「ほかに道は…」



階段から引き返す近くに瓦礫が積み上がった場所を見つけた。それは2階まであと少しのところまで重なり、ちょうどその先は天井が吹き抜けになっている。



「あそこだ!」



私は急いで駆け寄り、その瓦礫を登っていく。デコボコとした形は足がかかりやすく上るのは容易だった。



 なんとか2階へよじ登り、辿り着いたことで息を吐く。身体は火中にいた時から汗をかき続けK持ち悪い。2階も火は消されており、画期的なシースルースタイルとなったマンションの廊下を黙々と進むことができた。



 2階はロビーより崩れた個所は少なく、まだ原型を想像できる程度には形が残っていた。それでもところどころ床は抜け、上から瓦礫が降ってくることもあり慎重に進む必要はあった。



「はぁ、はぁ」



部屋の奥に連れ、室温は上がっていく。ここから先はまだ火が消えていないようだ。疲れ果てぼーっとする頭でひたすらに進み続けると、非常階段の扉を見つけた。



よしここから3階へ。扉を開けると目の前から大きな炎の塊が爆発するかのように覆い被さってきた。

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