第5話 比翼連理(10)
「なんで…」
動かない影狼に絶望する。今動いてくれなければ私たちはこのまま焼け死んでしまうか崩れる瓦礫で生き埋めにされてしまう。焦る私に比例するかのように男も騒ぐ。
「どうするんだ!?このまま死ぬまで待ち続けるのか!助けに来てくれたんじゃなかったのかよ!?」
男は硬直から解放されると半球の影に近づき、脱出を試みる。しかし、影を通過することはできず、ぶつかる。その事に男をはじめ、私も驚愕する。影の外に出ることはできないの!?
「なんだよこれ!誰か!出してくれ!」
影をガンガンッと叩きながら男は周囲に助けを求め始めるが、外は地獄の業火に包まれ、内には私と影狼しかいない。その声は虚空に虚しく響くだけだった。
「落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか、助けに来たとかでたらめ言いやがって!こんな事になるならあのまま死んだほうがマシだった!」
その言葉は私の胸に突き刺さり、同時に焼けた手の平がズキズキと痛み出す。凛空も私も自らを犠牲に火の中へ飛び込み、救助に来ているのになぜそんなことを言われなければならないのだ。私はその場にへたり込んでしまう。
一瞬の負の感情、それは“今”一番抱いてはいけない感情だった。黒い旋風は私たちには見えない速さで移動し、男を襲う。
「なんだ、これっ、あがぁ!」
男は急に床にひれ伏し、上から大きな腕によって押さえつけられる。
「あっ…がっ」
肺を圧迫され、呼吸ができなくなる男性はその場で悶えだす。
「やめて!」
私は急な出来事に動揺し、慌てて静止に入るが影狼は男を押さえつけたまま動かない。
「し、死んじゃう。うぅぅ」
男は突然の“死”の接近に涙を流す。私は必死に影狼の足に掴みかかろうとするが、影は私の手を通過し、触れることはできない。あの場で抵抗を見せたあの男の時と同じだ。
「離して!やめてよ!」
必死に腕を振り回す私の足首を男の手が掴む。
「助けて…」
その言葉、顔すべてがあの時と重なる。
「ああああああああああ!」
私は無我夢中で叫ぶ。また助けられないなんて嫌だ!
瞬間、足元が割れる。無くなる足場。そのまま私たちは自然落下する、影狼も共に落ちていくが、私達の横を何かが通過し上昇する!
「あーちゃんッ!」
崩れた地面からあーちゃんが姿を現し、落ちる私たちの前へと現れる。そのままあーちゃんは空中で私達2人を背中に乗せ、飛翔する。
「ナイスタイミングだよ!あーちゃん、凛空!」
私は凛空が助けに来てくれたのだと思った。しかし、あーちゃんの背に凛空の姿は無かった。
「凛空…?」
ドゴーンッと地面に強く叩きつけられる音が響く。いつの間にか周囲の影の檻は消え去り、あの火中の熱さが舞い戻ってくる。私は落ちていった影狼の姿を確認しようと下を覗き込む。
そこには、地面に着地した影狼の姿があった。影狼はそのまま落ちる瓦礫と壁を伝い歩き、こちらへ迫る。
「そんな、まだ追ってくるの!?逃げて!あーちゃん」
ピィーーッ!と鳴いたあーちゃんは、落下する瓦礫を華麗に避けながら飛行する。
2匹の炎界レースが今始まった。
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