第5話 比翼連理(7)

 しばらくあーちゃんに乗り、空を飛んでいる時だった。結構なスピードで飛行しているはずなのに、風を感じることは無く、空を切る音もない空間は尾心地が良く、クリアに凛空の声が聞こえる。



「夢…についてだよね?」



「そう、翼が見た夢について。翼に生まれた力に関係しているかもしれない。」



「私の…力…」



鼓動がドクンッと跳ねる。今の言葉は暗にこう言っているのだ。



“お前はもう人間じゃない”と…



「翼」



私の手を凛空の手が掴む。私は急に触れられたことに驚き、振り払ってしまった。振り払われた手を凛空が自分でも驚いたように見ている。



「ごめん…急だったからつい」



「い、いや。こっちこそ急にすまん。」



凛空は気まずそうに顔を逸らした。発生した“間”は消える事がなく、お互いの疎通は阻害される。



「ゆ、夢についてだったよね。」



「あ、ああ」



私はあの時の状況を思い出す。しかし、どこからが夢だったのかが曖昧だ。凛空の話では橋の上で出会った時意識が途切れたらしいが…



そこではっとなり、ジーパンのポケットに手を突っ込む。無い…



「どうした?」



凛空は急に青ざめた私を見て不思議がる。



「無いの!」



「な、なにが?」



「あれが、お守りが無いの!」



「お守り?」



凛空はキョトンとした顔をする。その表情で少し理解した。前にお守りを凛空に見せた記憶は夢だったということだ。



「落としたのか?」



「ううん、今分かった。」



「は?」



凛空は、意味不明だ。と口に出さなかったが分かるように首を傾げた。でも、更に分からなくなった。



 どこからが一体夢だったのか。凛空は橋で私と出会ったと言った。しかしその時には“お守り”を手に持っていたはずだ。凛空に見せたのが夢だったのなら手の中にあった“お守り”は何処へ消えたのだろうか。



「くそぉ、もうちょっと一緒に居たかったな」



急に知らない男の人の声が聞こえてくる。



「誰!?」



「声が聞こえたか…」



凛空は立ち上がり、遠くを見据える。



「あそこを見ろ」



凛空は遠く、進行方向を指さす。その先では、どす黒い煙がモクモクと大きく空へ盛り上がっている。



「あれは…火事!?」



「そう。俺が“見た”のはあそこだ。あそこで1人父親が取り残されてる。」



“父親”という単語に私は少し嫌悪感を憶えた。知らず知らずに顔が険しくなっていることに気付き、脱力した。



「優斗と真紀はにげれたんだろうか。」



声は現場に近づくにつれ、だんだんと大きくなってはっきりと聞き取れるようになってくる。



「何か聞こえたか。」



私の反応を窺っていた凛空がこちらに目を向けることなく聞いてくる。



「うん、そのお父さん奥さんとお子さんが無事か心配してる。」



「大丈夫、無事だ。」



凛空は一点を見つめながら答える。



「今どうなってるの?」



私には見えない世界を見ている凛空に現在の状況を確認する。



「男は4階にいる。息子と奥さんを先に階段をくだらせて、自分が下ろうとしたら階段が崩れた。他の住居者は全員逃げ切れたらしい。」



「そんな…」



「大丈夫だ、まだ生きてる。俺らで助ける。」



「どうやって?」



「アードラーで4階の窓から侵入する」



「火の中に飛び込むって事!?」



私が驚愕のあまり叫んでしまうと、凛空はこちらに振り向き、名前を授けた時のような子供っぽい満面の笑顔を私に向けた。



「その通り」

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