第5話 比翼連理(5)
凛空が向かう先には小さな家があった。凛空はその家の中に入って行く。
私はその場に留まっていたが、落ち着いた時、凛空の後を追って家へ向かった。家はこぢんまりとした作りで、白い壁は暗い夜には映えて見えた。玄関の前に立ち、扉に手を掛ける。扉を開くと、中は特に家具もなく、生活感はほとんどなかった。
「凛空?」
「…ちょっと待ってろ。」
凛空は部屋の奥からズルズルと椅子を引きづって現れた。私の前で椅子を置き、無言で座るよう促す。二人対面して座ると、凛空は一呼吸置いた。
「まずは、すまなかった。」
「え、なんで謝るの?」
意味が理解できない。
「お前を巻き込んじまった。」
「やっぱり、原因は凛空にあるんだね…」
「そう…だと思う。」
思う?
「どういうこと?」
「何から話そうか…」
凛空はその言葉を最後に黙り込み、しばらく視線をずっと地面に向けていた。私はそれを待つしかなかった。
「信じるか信じないかは自由だけど」
そして語り出す。思えば、ここから私の色褪せた人生は動き出したのだ。
「俺は…純粋な人間じゃないんだ。」
「人間じゃ、ない?」
「そう。俺の親父、物心ついた時には既にいなかったから俺も最初は信じられなかったけれど、人間じゃないんだ。」
「それは、何?」
私が聞くと凛空は力なく、私に微笑みかけた。
「神様」
「神様…?」
「まぁ、信じられないよな」
確かに以前の私なら、信じられないし、笑っていたかもしれない。だけれど、今は現実的じゃないことが起き続けている。
「ううん、信じるよ」
凛空は目を見開き、見るからに驚いたのが現れていた。凛空の表情から感情を読み取れたのは初めてだったかもしれない。
「すごいな、お前は。」
私はその言葉の後に、凛空を指さす、
「でも、そのお前っていうのやめて、私には翼って名前がある。」
すると、凛空は無だった表情を崩し、プッと吹き出す。
「分かったよ、翼」
私はそれに頷き返し、次に語られる話を待った。
「ってわけで、俺は神様と人間のハーフという事になるんだけど、俺には生まれた時から…まぁ実際は物心ついた時からある“力”が使えたんだ。」
「そりゃ、神様の子だもの、普通の人間じゃダメでしょ。」
「ダメって…それが、それだよ」
凛空は私の脇腹を指さした。つまり…
「怪我を治す?」
「ちょっと違う、怪我以外も治すことができる。極端に言うと不治の病だって治せる。」
「それすごいじゃん!」
「そうだ、すごい力だ。だから俺はこの力で、死にそうな人間を誰彼構わず助けて回ってる。」
「え?」
「もちろん全員じゃない。だけどできるだけの人間の命を救ってきた。」
ちょっと待って、それって…
「じゃあ、私を助けたのは偶然でも気まぐれでもなく。」
「…俺が助けたくて助けた。」
その言葉を聞いて、私は無意識のうちに凛空を叩いていた。
「痛い…」
「そんなの…ひどい。ずっと私は死に損なったんだと思ってた。そして川岸で助けられたんだと。でも、違ったんだ。」
凛空は何も答えない。それを良しとして、私の口は止まることなく紡ぎ続ける。
「凛空には聞こえてるんじゃないの?死ぬことしか希望は無くて、死にたくて、どうしようもない人の“声”が!そんな人たちすらも、無情に救ってきたって事!?」
「そうだ」
凛空の目は真っ直ぐに私を見据える。
「そんなの…ただの自己満足じゃない…」
「そうだ…」
凛空は強く下唇を噛む。
私は自分の言動に驚いた。佳代おばあちゃんと会って考えは変わったと信じてた。でも、心の深層ではまだ死にたいと思っていたのか…栞さんに聞かれたことを思い出した。
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