第5話 比翼連理(4)
「昨日の夜、凛空と別れた後、そこでずっと座り込んでたの。そしたら朝になって、警察のお兄さんに声をかけられて…補導されそうになったんだけど、脇の怪我が見つかって、病院に連れていかれたの。病院に行くまで幾つか質問されたんだけど、なんか、口が重かった?だるかった?億劫?なんか、そんな感じで人と会話するのが嫌になってたから、ずっと無言で…病院に着いたら先生の元へ、連れてかれたの。そして脇腹の包帯を取ったら、そうだ!包帯の下に膜があって…あれ?」
自分で脇を見る。あるはずの膜が見当たらない!何度も手で触り確かめるが、依然として膜のあった形跡すらない。、そう何もないのだ。
「なんで!?凛空にも見えないよね?」
そう言って脇を凛空に見せるが、凛空は何も言うことなく、ただ私の顔を見つめる。
「続けて」
「続けてって…」
冷静な凛空の対応に、私は動揺する。だって凛空は知っているはずだ!膜の正体もだが、それ以前に今は消え去った部位には、血が滲むほど出た怪我をしていたことを!
私は消えた痕跡を探すよう脇を摩る。だが、やはりそこには何もなく、代わりに私の体温と皮膚の触感が指先を通し、伝わる。この、あるはずのモノがない欠落感に私は既視感を得た。
「膜を見つけた先生が膜を剥がそうとした時、痛みがあって…自分で何も分からなくて何も答えないでいたら、カウンセラーだと思うんだけど、栞さんって女医さんの元へ連れてかれて、そこでも、いろいろ質問されて…だけどその時は、倦怠感みたいなものを感じなくて色々話した。」
そこで今まで無表情だった凛空の眉がピクッと動いた。
「何を話した?」
「え、別に大したことは…」
「何を話した?」
「え、ちょっと待ってね、他愛もない会話だけだったと思うけど…たしか、最初名前を聞かれて、そのあと、どうやって門町に来たかを聞かれて、答えなくて…その後、栞さんにご飯をご馳走になったんだけど、そこで自殺しようとしてことを言い当てられて…あとは年齢の話をして終わったかな。」
「そうか…」
凛空はそれだけを言って、その後、何も言うことは無かった。
「病院に帰ってきたら、診察の結果が出たって言われたんだけど、正体については分からないって事だった。そして…」
ここだ、ここからの話は現実世界から逸脱していて、言語化がとても難しい。言い淀んでいると凛空が口を開く。
「現実的じゃない事が起きた?」
私はその言葉に驚愕した!やっぱりこの不思議な現象は凛空が原因だ!
「知ってるんだね?!教えてよ!」
「落ち着け、知ってることは話してやる。だが、先に何があったのかを教えろ。」
「…声が聞こえた」
「声?」
凛空の反応は鈍い。このことについて知っているわけじゃないのか?
「多分、心の声。でも必ず聞こえる訳じゃなくて、何度か体験して出した推測は発言と思考で矛盾が生じた時だと思う。簡単に言うと嘘ついた時に本音が聞こえてくる。」
「なるほどな…それだけか?」
「ううん、後…」
あのことを話そうとした時、甦る記憶に胃がひっくり返るような感覚に襲われ、嘔吐しかける。
「んっ…はぁ…はぁ…」
「ほれ」
凛空は自分の手元のココアを手渡してくれた。私はそれを飲み干す。
「ふぅ…ありがとう」
「話せるか?」
「うん。」
私はぽつり、ぽつりと呟くように言語化していく。
「襲われて…抵抗していたら…影が…男を襲って…こ、こ、」
「もういい、分かった。」
凛空は立ち上がると、凛空の背後へ歩き出す。前後の文の繋がりなどなく、曖昧で、片言に近かったのに本当に凛空は理解できたのだろうか。
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