第5話 比翼連理(2)

 その“獣”の背に乗っていた私は、記憶のフラッシュバックによる動揺で動けなくなった。



光景、悲鳴、恐怖…様々なものが交錯し合い、私の身体を拘束していく。周囲では相も変わらず鳴る咆哮と、が崩れていく崩壊音が幾度にも及んでいる。



「なんで急に…」



凛空は固まる私の前へと来ると、諭すように私の目を見て口を開く。



「今回だけだからな」



そういうと、凛空は私に背を向ける。



adlerアードラー!」



一陣の風が流れ、私の髪を激しく揺らす。その激しい風に目を開けていられず、横を向き、また前を向くと凛空の姿は消えていた。どこへ行った!?



「ピィーーッ!」



頭上で鳴く猛禽類の鳴き声が嫌に耳に入り、自然と声の主へと惹かれ、上へ向くと目を疑った。



そこには大きな鳥が旋回していた。でも、大きさが異常だ!カラスなどがよく空に群れを成すが、10羽ぐらいの群れの大きさに匹敵する。あれは、恐竜が居た時代の鳥じゃないか!?



その恐鳥類きょうちょうるいが作る影が私の辺りを埋め尽くす。



暗くなる周囲と反比例し、ぽつりぽつりと幾重にも光が交わり点々と伸びていた。光の下を覗こうと目で追うと気づく。眼下には深淵とも見間違うほどの虚無が広がっていた。今、自分は空中に居るのだ。正しくは空中に居る“獣”の上に居る。



 じゃあ、私は雲に落ちてはいなかったのだ。しかし、最初の時にはあった螺旋模様に輝く光の柱が見当たらない。1本もだ。最初に見た時は、何本も縦横無尽に伸びていたのに。



もう私には、何がどうなっているのか、どこにいるのか、すべてが理解できない事ばかりだ。



その時、旋回していた恐鳥類が急降下を始める。私が乗る“獣”も急降下する恐鳥類を視界に捉え、迎え撃つかのように背骨が撓る程に姿勢を低くした。



私が今居るであろう部分は“獣”の頭に近い場所だと思う。これ、もしかしてぶつかり合ったら私も巻き込まれるんじゃ…



 逃げるため立ち上がろうとする。しかし、立ち上がることはできなかった。まだ身体は、過去に囚われたままだった。まるで自分の身体じゃないみたいだ。



「翼!」



私の名を呼ぶ声がした。視線はこちらに迫る恐鳥類の頭上には凛空がこちらを見ていた。



「いいか、意志ヴィレ創造シャッフェンは自分の気持ちが具現化した姿だ、いわば言霊に近い。」



凛空の言葉を私は聞きながら必死に恐怖に立ち向かう。後しばらくすれば凛空達は私達に突っ込んでくるだろう。



「このあとどうなるの!?」



「そいつを疲れさせる。その後は翼がどうにかしろ!」



「そんな無茶な!?」



そうこうしているうちに凛空たちは、私達に目と鼻の先まで近づいてきた。ぶ、ぶつかるっ!



「暴れるからしっかり掴まっとけ…よっ!」



そう言うと、凛空が乗る恐鳥は私達とほぼゼロ距離、獣の鼻先で曲がる。それを避けようとした“獣”は仰け反りガルルル~…と唸り声を上げる。



私は凛空に言われた通り必死に塩池に掴まり、耐え抜いていた。ここからしばらく白狼と恐鳥の戦いは続いたのだった…

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