第5話

第5話 比翼連理(1)

「おーい」

 快眠を妨げるかのように、私の中にある静寂は破られる。揺すられる肩には小気味良く振動が感じられ、一度浮上しかけた意識は、また深い夢の世界へと落ちていく。



「ったく…しかしまぁ、想像以上の結果出してくれちゃって…」



何やら遠くで聞こえる呟き声は、夢と現実の合間を彷徨う私の耳に入っては出ていった。相も変わらず、気持ちの良い私を包む温もりは、安心する暖かさを宿していて、動く気すら包んで吸い取っていく。



「多分ここが天国なんだ…」



「間違いなくそこは地獄だな。」



その言葉で私の意識は、引き返し覚醒へ誘われる。



「なんでよ~、こんなに気持ちいのにぃ…」



「今のお前の姿が理由だよ、だらしない顔しやがって」



ゆっくりと、重要力に逆らいながら重い瞼を持ち上げる。霞む視界の中で、輪郭がぼやけて曖昧な形を成すものがこちらに近づいてくる。



「やっと起きたかよ、眠り姫」



それは凛空だった。ほぼゼロ距離にある凛空の顔に驚き、反射的にアッパーパンチを繰り出す、ドスッっと鈍い音がして凛空の顎に入ったパンチはいい軌道を描きながらそのまま天へと突き上がる。凛空の細い体は宙に浮き、後ろへと吹っ飛ぶ。



「痛ってええええ、なにすんだ!このバカ力女!ゴリラ女!」



「ご、ごめん!急に目の前に顔があったか…誰がゴリラよ!謝って損した!」



「最後まで謝れてねーよ!人を殴ったらダメだってお母さんに…」



その言葉は最後まで紡がれることは無く、尻すぼみに無に消えていく。こいつ、気が使えるんだ…



「ごめん…」



凛空は申し訳なさそうそっぽを向き、顔をしかめた。そこで直感的に違和感を覚えた。



凛空は初対面時、人に気を使うことをしない奴だと、冷めた奴なんだと思っていた。だがら凛空は本当に凛空なのかと疑ってしまった。



そんな訝しげな視線を送る私に気付いた凛空は軽口を叩く。



「なんだよ、ブス」



うん、やっぱりさっきの嘘。こいつ殺す!



「シャアアアアァ!」



私は腕を振り上げ威嚇をしてみる。凛空は嗤うだろうと思っていたが、その顔は急に慌てふためいた。



「ばか!それシャレにならん!」



「え?」



私の視線は大きくずれ、地面が揺れている。地震!?



そして、凛空が居た場所に隕石のように巨大な塊が叩きつけられ土煙が辺りを埋め尽くす。な、なに!?



土煙が晴れた時、肝心の凛空は姿が見えない。まさか…



「ばかやろう!殺す気か!」



頭上からの叱責を受け、声の元へ向くと近くにあった大木の枝に掴まっていた。あんな高くまでどうやってあの一瞬で!?



「何もしてない!」



な!」



凛空は1回転し、枝の上に乗ると私に向かって指を指した後、その指を下に下げた。



それを追うように、私の視線も下がる。ふかふかな白い毛の絨毯を彷彿とさせるモフモフが目一杯に広がっている。そして気付く…さっきのは地震じゃない…!地面が動いてるんだ!



 そいつは、獲物を見失ったように動き回る。不思議とこのに私は見覚えがあった。



「何か探してない?」



「俺を探してる。そいつはお前の意志の具現化だ。」



「は?」



「ま、簡単に言うとお前の子供だよ。」



「こどっ!?」



「とりあえず、そいつ大人しくさせてくれない?」



「ど、どうやって?」



「言ったろ?意志が具現化してるんだ。触れながら思いをぶつければいいんだよ。」



凛空の説明は大雑把すぎる気もしたが、とりあえずやってみよう。

背中に触れ、祈るように心の声を吐き出す。



大人しくして…



すると、獣の動きは止まる。良かった。



しかし、直後に大きな遠吠えを上げた。



「オオオオオオオォォ!」



私はその遠吠えを聞いた時、背中に嫌な汗を掻いた。



だってその声は、あの部屋で起きた残酷な出来事の時にも聞いた声だったから…

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