第39話 対策と謎解き

 モフカーニさんがどんな方法を教えてくれるのかと期待して見守っていると、懐から何か瓶のような物を取り出した。



「あの、この瓶は?」


「これは何の変哲も無い、ただの瓶です。そして今は中身も空っぽです」


「ええと………それをどう使うんですか?」


「もちろんこのまま使うわけじゃありません。リンさん、この中にあなたの鎮聖滓ザメインを保存させて頂くのです」


「えっ?あ、そうか!!」



 考えてみれば『炎』を鎮火するのは俺の聖力せいりょくの塊である鎮聖滓ザメインだ。


 それを瓶なんかに貯めておけば、あとはあな開門くぱぁできる門の乙女さえいれば、勇者オレが現場にいなくても鎮火できるんじゃないか!?


 今ならまだ毎日『炎』が発生しているわけじゃないから、『炎』が発生していない時に瓶に鎮聖滓ザメインを貯めこむ余裕もある。



「残念ながら鎮火するまではできませんよ。先ほども言いましたが、あくまで時間稼ぎといったところです」


「そ、そうなんですか」



 俺の思考を読んだモフカーニさんが早めに釘を刺した。



「勇者の鎮聖滓ザメインは確かに『炎』を鎮火します。しかし完全に鎮火できるのは、出したてのイキのいい鎮聖滓ザメインだけなのです。とは言え、瓶に詰めた射聖しゃせいから時間の経ったものでもある程度は効果がありますので、いざという時のために各地域で多少保有しておくのがいいでしょう」


「な、なるほど………。あ、でも何でその話をさっきの会議の時に言わなかったんですか?」


「これを言えば、今度はどこの地域が優先的に鎮聖滓ザメインをもらうのかという話になるでしょう?全ての地域に行き渡るだけの量となると時間もかかりますし、どうしても順番になりますからね」



 確かに、今日集まった領主達の人数分に一人一瓶だとしても、とても一日じゃ無理だ。


 鎮火活動ちんかつが全く無かったとしても二週間くらいはかかる。


 という事は、時々『炎』も発生して鎮火活動ちんかつ聖力せいりょくを使う事も考えると、最低でも三週間は欲しい。


 モフカーニさんはそこまで考えてくれていたのか。



「お譲りした『エルフの霊薬』を有効にお使いください。そうすれば比較的早く全ての地域分の鎮聖滓ザメインを確保できるでしょう」


「ありがとうございます!俺、頑張って射聖しゃせいしまくります!!」


「ええ。さて、実はもう一つお二人には話がありまして……」


「はい、他にも何か対策が?」


「いえ、こっちは対策ではなく疑問なんですがね。ただ、これも先ほどの会議の場で言えば混乱が予想されましたので控えていたのですが」



 何だろう。


 モフカーニさんは少し声のトーンを落として切り出した。



「そもそも『炎』は何故、このサンブルク王国だけで発生するのでしょうか?100年前の時もそうでしたが、この国以外の諸外国で『炎』が発生したという話は聞いた事がありません」



 これは意外な疑問だった。


 言われてみれば当然の疑問だが、俺にとってはこの国も外国みたいな感覚だったので、そこまでは考えていなかった。


 その事についてはどうなんだろうと思い、ラマニアのほうを見る。


 ラマニアの様子を見るに、どうやらその件については理解していたようだ。



「それについては我が国でも昔から疑問に思われていた事です。『炎』発生の原因がわからない為、誰も口にはしませんが確かに何故なのでしょうか……」


「その謎を究明しようとはしてなかったって事?」


「していないわけではありませんが、現実問題として『炎』発生の原因も不明なのと、鎮火対策のほうに力を割いていたものですから……」



 そりゃ自分の国の事なんだから、気づいていないわけは無いよな。


 気づいてはいても、そこを追求して研究するだけの余力が無かったという事か。


 でも、この国の人なら誰もが当然わかっているはずの疑問をモフカーニさんほどの人がこのタイミングで持ち出したのは何故だろう?



「まぁ私も今この場で答が出るとは思っていません。ですが、今こそその事に目を向けてみるべきではないかと思うのです。もしも万が一『炎』の原因が解明できれば、そもそもの勇者不足問題も解決できるのですから」



 それはその通りだ。


 現状は『炎』が発生するから異世界から勇者を呼び、鎮火活動ちんかつを行っているわけだが、それは言い換えれば「後手にまわっている」という事で、根本的な解決になっていない。



「そうです。その謎解きのヒントとなるのが『何故サンブルク王国だけで発生するのか』だと思うのです」


「なるほど………」


「私のほうでも色々と調査してみますので、お二人も頭の片隅にでも覚えておいて頂けますか」


「ご助言、感謝致しますゼシル族長」



 ラマニアはモフカーニさんに深々と頭を下げた。



「いえいえ。それではラマニア姫、話は変わりますが、せっかくですので先日の貿易の件もご相談したいのですが……」


「あ、そうですね。では別室へご案内致します」



 ラマニアはモフカーニさんを連れて移動する事になったので、俺はモフカーニさんに挨拶をして部屋に戻る事にした。

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