第40話 鎮火のパワー、上から出るか?横から出るか?

 部屋に戻った俺は、さっそく頭を抱えていた。


 今の俺にできる『炎』対策としてモフカーニさんが教えてくれた、鎮聖滓ザメインを保管しておく作戦。


 そのために『聖塔ミティック』を出し、モフカーニさんにもらった瓶を床に置き、いよいよ準備ができた!と意気込んだまでは良かったのだが……。



鎮聖滓ザメインって、どこから出るんだ?」



 よく考えたら俺は今まで一度も『聖塔ミティック』から鎮聖滓ザメイン射聖しゃせいする瞬間を見た事が無いのだ。


 俺が今まで射聖しゃせいした時は、ラマニア、イオタさん、ティアロさん、それぞれの『聖門ミリオルド』の門内なかだった。


 門内射聖なかだしをした後に門内なかから垂れてきた鎮聖滓ザメインを見た事はあるが、射聖しゃせいの瞬間だけは見た事が無い。


 さて、どうしたものかと腕組みをして自身の『聖塔ミティック』をまじまじと眺める。


 太い円筒状の根元部分と、先端部分は少し丸みを帯びて膨らんでいる。


 これを『塔』と見立てるならば先端部分は塔の屋根のように見えなくもない。


 でも、この形を『塔』と表現するセンスは何て言うか、現代人の俺からすれば少し昔の西洋人という印象を受ける。


 俺がこの形状を表現するとしたら、カラオケボックスで見かける『マイク』だ。


 特に最近は使い込んできたせいか、初期の頃より黒みを帯びてきており、そのあたりも『マイク感』を増している。


 って、そんな話はどうでもいい。


 問題はこの『聖塔ミティック』のどこから鎮聖滓ザメインが出るのかって事だ。


 せっかく射聖しゃせいしても、それを上手く瓶でキャッチできなきゃもったいない。


 いくら『エルフの霊薬』があるとはいえ、俺の聖力せいりょくも無尽蔵というわけじゃないんだから。


 おそらく先端の丸みを帯びた部分のどこかだと思うが、俺の想像する候補は二つある。


 一つはホースのように、先端の先っちょから放出するパターン。


 もう一つは先端の外周部分から放射状に、例えるなら学校のグラウンドのスプリンクラーのように放射するパターンだ。


 俺としては前者のイメージのほうが強いが、でも昔の人が『塔』と見立てた事を考えてみると、後者のほうが『塔』っぽい気がしなくもない。


 仮に後者だった場合、瓶で受け止めるどころか射聖しゃせいした瞬間に部屋中が鎮聖滓ザメインまみれになるだろう。


 答えが出ない状態で唸っていると、部屋のドアがノックされた。



「はーい、開いてますよ」


「リン、ちょっといい?」



 来訪者はティアロさんだった。



「族長から聞いたんだけど、鎮聖滓ザメインを保存するんでしょ?」


「はい、実は今まさにその事で悩んでまして……」


「だと思った。族長からこれを渡すように頼まれたわ」



 するとティアロさんは俺の部屋の隅に積んである『エルフの霊薬』の段ボールの上に、さらにもう一箱の段ボールを取り出して積み上げた。



「それは?」



 ティアロさんは新しく出した箱の中から一つ取り出す。


 それは座布団くらいの大きさのビニールの袋だ。


 そしてその袋をティアロさんはペリペリと破いて開封する。


 すると中から出てきたのは、フリスビーくらいの大きさの丸い物体だった。


 見た感じの材質はゴムっぽく見える。



「これは何ですか?」


「え……アンタ本気で言ってんの?これは………ええと、『聖塔ミティック』用の『避鎮具コムド』よ」


避鎮具コムド?」


「まあいいわ、『聖塔ミティック』を出しなさい」


「は、はい」



 俺は言われた通り『聖塔ミティック』をティアロさんの顔の前に出した。



「うっ……」



 ティアロさんは何故か顔を赤らめるが、すぐに何事も無かったように続けた。



「仕方ないから私がやったげるわ。これをこうして………」



 円盤状の薄いゴムのような避鎮具コムドを『聖塔ミティック』の先端に被せる。


 そして円盤の外周部分を『聖塔ミティック』に沿ってクルクルと下に回転させてゆく。



「お、おお……!」



 するとあっという間に『聖塔ミティック』をピッタリと覆う薄い膜が完成した。

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