第38話 領主会議③

 だんだんと険悪なムードになってゆく会議室の中、その流れを止めてくれる人物がいた。



「あのぉ~皆さん、ちょっといいですか?」



 そう言いながら小さく手を上げたのはエルフの族長モフカーニさんだった。


 言葉と挙手は控えめながら、醸し出されるその雰囲気は実に堂々とした威厳を感じさせるものだった。


 先ほどまで喧々囂々けんけんごうごうとしていた領主達の声はピタッと止み、エルフ族の族長に注目した。



「本来協力すべき皆さんがここで争っても何も利は無いでしょう。私の意見としてはサンブルク王国を東西半分に分担してリン殿と第二の勇者殿にお任せするのがいいと思うのですが………」



 そこまで言いかけて、モフカーニさんは俺のほうを見てニッコリと微笑むとさらに言葉を続けた。



「……それと実際に鎮火活動ちんかつを行うリン殿のご意見を聞いてみたいと思うのですが、どうでしょう?」


「えっ、お、俺ですか?」



 今度は室内全員の視線が俺に集まる。



「え、えーと………」



 こんな注目されてる中で何か発言しろってのか!?


 モフカーニさんなりに気を利かせてくれたのはわかるけど、お偉いさんばかりが集まったこの中で発言するのはめちゃくちゃ緊張する。


 でも、せっかくモフカーニさんが作ってくれた機会だ、俺なりの意見を言うべきだと思った。



「えっと、俺……いや、僕もモフカーニさんの言うように東西を半分に分担するというのが最善だと思います。ただ、第二の勇者が見つかったとしても最初は僕がビロープから東側を担当したいと考えています」



 会議室内がザワつく。


 王都キーストを中心に分担すれば、国土のほぼ半分ずつという事になるが、キーストより西のビロープ領を境に分担するならば、およそ7対3くらいの割合となる。



「ふむ。その理由をお伺いしても?」


「はい。仮に第二の勇者が見つかったとしても、最初は初心者です。多少なりとも経験と訓練を積んだ僕がより広い範囲を担当すべきだと思います」


「なるほど。実に筋の通った意見だと私は思いますが、皆さんはいかがでしょうか?」



 モフカーニさんが俺の意見に力強く同意してくれた事もあり、領主達も渋々といった表情を見せながらも概ね同意した。


 さすがはエルフの貫禄といったところだろうか。



「当面はこの方針で良いかと思いますが、それもこれも第二の勇者殿が見つかったら、という前提の話です。そして第二の勇者殿が加わったとしても、その状態で『氾曝期はんぼっき』を迎えたら、とても勇者二人では乗り切れないでしょう」



 その通りだ。


 今までのは『降噴期こうふんき』の今だからこそ通用する対策の話で、『炎』の頻度がより活発化してしまった時にはどちらにしても厳しい。



「まだ3ヵ月ほど猶予はありますが、それまでにヴィアンテ様が一人でも多くの勇者を連れてきてくださるのを期待するしかないですな」



 モフカーニさんは実にあっけらかんと言いきるがそれが現実であり、結局のところ自分の領土だけ守れればなんていうのは楽観的すぎる考えだと、その場にいる全員が思い出させられた。


 勇者が増えない限り、一つの領土だけ無事で済むなんて事はあり得ないのだから。


 結局この日の会議はそんな重苦しい空気のまま幕を閉じ、解散となった。





 会議が終わり、領主達の帰った後の会議室でモフカーニさんが俺に話しかけてきた。



「リンさん、先ほどはご立派でしたよ。勇者としてよく考えておられるようですね」


「いえ、モフカーニさんの存在が大きかったからこそ、俺の意見なんかをみんな聞いてくれたんですよ」


「まぁそれもあるかもしれませんが、貴方は何も間違ってません。もう少し自信をお持ちなさい」


「ありがとうございます」



 そこへ領主達の見送りを済ませたラマニアが戻ってきたところで、モフカーニさんが話を切り替えた。



「さて、ラマニア姫。領主の皆さんもお帰りになられた事ですし、私から一つ進言があるのですが」


「はい、何でしょうか?」


「あのような雰囲気の中で言うと混乱になりかねないので控えてましたが、実は『炎』対策として有効な方法があるのです」


「ほ、本当ですか!?」


「はい。と言っても鎮火ができるというわけではなく、あくまでも急場を凌ぐだけの時間稼ぎ程度だとご理解した上でお聞きください」



 ただの時間稼ぎでも、多少でも『炎』の驚異から身を守れる方法があるなら何でも知っておくべきだ。


 俺とラマニアはモフカーニさんの言葉に耳を傾けた。

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