第20話 真夜中の来訪者

 鎮火が完了して4~5分ほどっただろうか。


 俺とラマニアはまだ動けないままでいた。


 あの巨木の根元で、両手と両膝を地面につけて放心状態のラマニアと、そのラマニアの背中に体を預け、脱力状態の俺。


 しばらくの間、頭がボーッとして働かなかったが、ある時を境にふっと我に帰った。



「はっ!?ああっ!!ラマニアっ、ごめんっ!!」



 そうだ、ラマニアだって極度の疲労でうずくまっているのに、その背中に俺の体重を乗せて覆い被さってるなんて、俺はバカか!?


 俺は慌てて立ち上がり、ラマニアから離れた。



「あ……リン様?わ、私なら大丈夫ですよ」



 そう答えるラマニアの声には力が感じられなかった。


 どうやら相当消耗しているらしい。



「ラマニア、立てる?」


「あ、はい」



 俺はラマニアの左腕をつかみ立ち上がらせようとするが、やはり体に力が入っていないのが腕を通して伝わってくる。


 なのでラマニアの左腕をそのまま俺の肩にまわし、担ぐようにして彼女の立ち上がりを補助した。




 霊園を出て駐車場まで来ると、俺達の姿に気づいたガッツさんと運転手のイオタさんが血相を変えて駆け寄ってきた。


 ラマニアは俺の肩に掴まって、見るからにフラフラな状態だし仕方ない。



「ラマニア殿下でんか!!大丈夫でございますか!?」


「え、ええ、平気です。鎮火活動ちんかつは無事に完了しました」


「ご苦労様でございました。さぞお疲れでしょう、さぁ、お車にお乗りください」


「ありがとうございます」



 イオタさんが後部座席のドアを開けてくれて、俺とラマニアが乗り込む。


 ここへ来る時はガッツさんも一緒に後部座席に座っていたのに、何故か今回はみずから助手席のドアを開けて乗り込んだ。


 そしてそんな俺の疑問に気づいたのか、後ろの俺達に振り返りながら微笑みかけて言った。



「お二方ともお疲れでしょう。私の屋敷に着くまでの間、ゆったりとおくつろぎください」



 そういう事か。


 俺とラマニアに気遣ってくれていたんだな。



「ありがとうございます、ガッツさん」


「お心遣い、感謝致します」



 ガッツさんは微笑むだけで特に何も答えず、隣のイオタさんに手の合図で車を出すように指示した。


 お言葉に甘えて少し休もうかと思ったのだが、ガッツさんのお屋敷へは15分ほどで到着してしまった。


 まぁ、車の中よりも広いベッドの上のほうが遥かに体が休まるし、そのほうがありがたいけども。



「さぁ、我が家へようこそ。お食事のご用意をさせておりますので」



 お食事と聞いて俺の腹の虫が「ぎゅるるるる」と鳴く。


 さっき大量に射聖しゃせいしたばかりだし、聖力せいりょくと体力の回復のためにもありがたく戴こう。


 俺達はガッツさんのデカイ屋敷の、これまたデカイ食堂に案内された。


 すると長いテーブルの上には既にところ狭しと料理の数々が埋め尽くされていたのだった。


 そこから先はもう、無我夢中で目の前の料理をむさぼった。


 俺はそれほど大食いという方ではなかったのだが、最近、特に射聖しゃせいをした後は異常なほどに腹が減る。


 その飢餓感を埋めるため、とにかく腹に詰め込めるだけ詰め込むのだった。


 食事の後は、これまた大きな大浴場でさっぱりと汗を流す。


 そして俺とラマニアそれぞれに用意してもらった部屋に通され、ふかふかの巨大ベッドに思い切りダイブするのだった。


 あー、気持ちいい。


 このまま一気に夢の世界へ意識が沈みそうと思ったその時、部屋のドアがノックされる音で飛び起きた。



「はい?どなたですか?」


「お疲れのところ申し訳ありません、勇者様」



 女性の声。


 ラマニアなら俺の事は「リン様」と呼ぶし、いったい誰だろう?と、疲れていてあまり働かない頭を働かせて考えていると、ハッと思い出した。


 運転手のイオタさんだ。


 ドアを開けると、予想通りの人物が立っていた。



「勇者様、夜分にすみません。少々中に失礼してもよろしいですか?」


「え、ええ、どうぞ」



 俺は少し動揺しながらイオタさんを室内に招き入れた。


 イオタ・バーバンさん。


 ガッツさんの運転手兼付き人とのことだったので、あまり俺とは接点が無いと思って意識して見てなかったけど、結構綺麗な女性だった。


 髪の色は俺の世界でも珍しくない茶色で、肩まで届くか届かないかくらいのショートボブ。


 身長は低く、体つきは小柄という言葉がしっくりくるのだが、しかし幼いといった印象は無く、大人の女性という雰囲気は確かに感じられる。


 なんて言うか「美人」と「可愛い」の中間、または両方の要素をもっているような、そんな印象だった。


 この人もまたガッツさんとは違った意味で年齢不詳な人だな。



「それでその、イオタさん?俺に何か…」


「はい、実は………」



 そう言いながらイオタさんは俺の胸にそっと両手を添えてきた。



「勇者様に見て頂きたいものがあるんです」


「えっ?な、何を……」


「私の…………『聖門ミリオルド』を」



 その刹那、イオタさんの両手の前に光の縦筋たてスジが現れた。

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