第5話 訪問者
ある日、私の家を訪れた人がいた。
対応したのはお母さんだった。
「モモコは部屋にいなさい」そういってお母さんは玄関を出て行った。
玄関の隙間から見えた訪問者は、四十代のおじさんだった。身なりからしてここらの村の人ではないことは明らかだった。
たぶん役人だろう。
何を話しているのか興味がわいたので、私は玄関に耳を当てて外の会話を盗み聞きすることにした。
もしかしたら役人の人がお父さんの短剣を買いに来たのかもしれない。
「この短剣を作って売っているのはここの家の主人だと村の人からお聞きしましたが、今いますか?」バリトンの低い声が聞こえてきた。
やはりお父さんの短剣を買いたくて来たのだ。私は高揚した。やはりお父さんの短剣はすごい物だったのだ。
「主人はいません。今外に出ているので」お母さんが答えた。
「それにそんな短剣は知りません。誰が言ったか知りませんが、私の主人がそんな短剣を作れるわけありません」
ん?お母さん何嘘言ってるの?
「この短剣を見せてもらった村人の話によれば確かにこの家の主人が作ったとそう聞いてきましたが」
「それはたぶん村の人が勘違いしているのでしょう」
「ですが―――」
「もうお引き取りください。これ以上話していても私は何も知らないのでお答えできません」
お母さんがそう言うと、足音が遠ざかっていった。
お母さんが玄関を開けた時、私はお母さんと目があった。
「モモコ、聞いていたようね」
「どうしてあんな嘘をついたの?」
「モモコは何も知らなくていいの。それよりこの家を離れなければいけなくなったわ」
「えっ!?」
話が全く見えない。急に男の人が来たと思ったら、お母さんは嘘をついて、しまいにはこの家を離れなければならない!?
私は頭の中で思考をフル回転させた。一体何が起きているのだろうか。
そこで引っかかったのが先日、お父さんと短剣を売りに行ったときのことだ。
お父さんは都には行きたくないようだった。
まさかこれと何か関係があるのかもしれない。
私の中で焦りが芽生えていた。
夕方、お父さんが帰ってきた。
お母さんが男の話をすると、お父さんも顔をしかめていた。
そしてその夜、私たち家族は荷物をまとめ、家を飛び出した。
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