ねじまき鳥と雑草の園。

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2009年プー太郎の日記を転載。ちょっと「読む」の個人史にも通じる内容です。

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さわやかな土曜の昼下がり。今日の日記。


朝から天気がよかったので、寝具を干しました。一時期の梅雨っぽい天候で、湿湿っぽい感じになっていたであろう寝具たちが、今、気持ちよさそうにベランダでヌクヌクしてます。

ついでに、シーツやカバーもお洗濯。部屋に差し込む日差しに程よく陰を作ってくれながら、もうすぐ乾くところ。


気持ちがよいので、2カ所の窓を朝から開け放っていると、時々、カーテンがソヨとそよぐので気づくくらいのやわらかい風が。少し雲があって、時折、太陽をちょっと隠す。ゆっくりとまた雲が退(の)くと、サアッと陽が入り込んで来て、部屋の色合いが変わるのが心地よいです。


うちのお隣は、今、空き家なのだけど、隣接する敷地をオッちゃんがセッセと手入れしていたころは、私の部屋の窓から見る限りは、究極につまらない空間になっていたのが、空き家になって放ったらかしになると、そこには実にさまざまな雑草が生い茂り、隣の芝生的に無責任に眺めてる分には、とても魅力的な空間と化しました。


今は、小さなピンクの花がそこここに咲きにぎわい、さらに小さな小さな薄紫の花がその間を縫って、低くひっそりと咲いている。ペンペン草らしき姿も見える。ヒメジオンと思われるつぼみはふくらみ、まだ何かわからないモノがぐんぐんと背を伸ばしている。もちろん、オオバコやシロツメクサもある。

不思議なことに、この3年見て来て、年々ちょっとずつ植生が変わっているようなのです。最初の年にずいぶんと楽しませてくれた、背が高めで紅花をピンクにしたような大きな花は、次の年には影も形も見られませんでした。今年も。「キング」の称号を与えたいくらいの勢いで君臨していたのに。綿毛がすごかったので、うちの建物の管理会社が抜いてしまったのかもしれない。

去年あったはずの黄色い花も、今年はまだ見られません。

こんな狭い空間でも、植物たちの激しいサバイバル競争があるのかも。


私は、この日当たりの悪いささやかな空間を「雑草の園」と名付け、朝と夕方、カーテンや窓を開け閉めする時に必ずワクワクしながら眺めています。

一度ここに足を踏み入れて、一つ一つの草花をじっくりと観察し、名前を調べたりもしたいと思っていたのが、いざ行こうとしてみると、窓から見ている時にはわからなかったくらい、実は深い深いプチジャングルだったのでした。カンタンには人を寄せ付けない、完璧に雑草だけの世界。


ここを眺めてワクワクする理由はほかにもあって、この小さいながらも雑草たちが自由を謳歌している空間は、村上春樹の「ねじまき鳥と火曜日の女たち」という短編のイメージを連れて来るのです。足りないのは、鳥の石像だけ。

空き家と草ボウボウの庭。主人公は失業中。奥さんは事務仕事をしながら、特技を生かした副業も楽しんでいる(なんて理想的なんだ!)。あと3カ月で失業保険が切れる「僕」は、心穏やかとはいかない日々。だけど、うらはらに時間はまったりとしていて、僕がちょっとヘンな女たちとかかわろうとも、ビクともしない。そして、ネコ。

あの話の中には、私が心惹かれる(または共通/共感する)要素が詰まっている。


今日は、窓辺のお掃除をしたので、午前中に2回もわが雑草の園を観賞。

なので、土曜日ではあるものの、ねじまき鳥な日にすることを思い立ち、お昼はスパゲッティにしました。

BGMは、ロッシーニ「泥棒かささぎ」を探すのは面倒だったので、かわりにMジャクソンを追悼。

そして昼食も終わり、ねじまき鳥はおろか、カラスすら鳴かない静かな午後となっています。

残念なことに、誰からも電話もかかって来ない。10分と言わず、心ゆくまでお相手するのに。


ネコを探す必要もないし…、あとちょっとしたら寝具を取り込んで、豆乳でも買いに行くか。。。

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