第116話 急襲
「さて、これぐらいならいいかな」
俺は眼下のホームセンターを見渡しながら呟く。
今、いる場所は高度でいえば目算だが、500メートルはあるはず。これだけ上空からだと、大きなホームセンターと言えど、細かい部分までは見えない。
しかし、それでも豆粒のような影が、ホームセンターを出入りしているのが見える。
俺は荷物から双眼鏡を取り出す。これはファルト達が探索してとある住宅から見つけて来てくれた物だ。
「やっぱり。ゴブリンだ」
この高さ。逆に、地上から発見されてしまう恐れも、もちろんある。だが、これぐらい高さにいれば鳥と見間違えてくれる事を期待したい。
「そろそろ、かな」と、双眼鏡を目に当て動かしながら呟く。
先ほどまでとは明らかに動きの変わる、ゴブリン達。
ホームセンターの正面口から、わらわらと溢れるように出てくる。
「まだ、あんなにいたのか。これは一手間掛けといて良かったかも……」
どんどん出てきたゴブリン達の向かう先には、小さなゴブリン達よりもさらに小さいぷにっと達の姿があった。
そう、あれはネカフェを出発したあとに生み出したぷにっと達。
ネカフェの周りで作った彼らを連れてくるのは、何となく江奈さんが悲しみそうで。
前に空を飛んで見つけていたコンビニ。ホームセンターに来る前に寄って、色々と調達しておいたのだ。そして、実験がてら、ぷにっと注入をしてみた。
そのぷにっと達が、数人、てくてくとホームセンターまで歩いて来たのだ。
ゴブリン達にとっては見たことのない存在。ゴブリン達がぷにっと達を遠巻きに取り囲む。
──さすがに知能が高いだけあるな。むやみやたらに攻撃はしないのか。
ぷにっと達は、取り囲まれたのを気にした様子もなく、進み続ける。
その平然とした様子にゴブリン達が戸惑うのが、上空にいても伝わってくる。
顔を見合わせるゴブリン達。しかし、すぐに気を取り直したのか、手にした工具を振りかぶり、ぷにっと達を叩き潰そうと駆け寄る。
ぷにっと達が手にした物を両手で持ち上げる。
それは、コンビニでお借りしたチャッカマンや、ライター。
小さなぷにっと達のさらに小さな手で、それらに火がつけられる。口元には火が。
そして口から、勢いよく吐き出される液体。
液体はすぐさま引火する。
簡易的な火炎放射器のように、火のついた灯油が、ゴブリン達に降り注ぐ。
そう、ガソリンスタンドでゴブリン達がガソリンを使っていたのを、参考にさせてもらったのだ。
コンビニで集めたペットボトル。中身は残念ながら腐っていたので破棄。そして同じくコンビニで売っていた灯油。
──ここら辺、これから冬になると寒くなるんだろうな。ガソリンスタンドは電気が来てなくてガソリンは用意出来なかった。灯油だけでもコンビニに売ってて良かったよ。
その灯油を手動のポンプでペットボトルに詰め、ぷにっと注入をしたのだ。実験というのは、ファルト達やウシャ達の元になった物よりも小さな物、かつ液体入りに、ぷにっと注入をしたらどうなるかというもの。
その実験は無事に成功したといえる。
小さなぷにっとが出来たのだ。
そしてその体の中には灯油が液体のまま、存在。しかも彼らはそれを吐き出す事が出来た。
そして、今。
眼下は阿鼻叫喚の火炎地獄と化していた。
火のついた灯油を被ったゴブリン達が暴れまわっている。その火がホームセンターの一部にまで引火し始めている。
たなびく黒煙。
それは、残念ながらペットボトル生まれのぷにっと達も例外ではない。
灯油を吐き出す際に失敗したり、火のついたゴブリンに接触したりして、ぷにっと達も燃えてしまっている。
しかし、火のついたぷにっと達は一体でも多くのゴブリンを燃やそうと、その動きを止めない。
──すまない、ぷにっと達……
俺はこの隙にと、ホームセンターの屋上の駐車スペースめがけ、急降下を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます