第117話 侵入
たなびく黒煙に紛れるようにして、一気に降下していく。
ホームセンターの屋上間際で、急制動。
飛行スキルを全力で上方にかけ、落下の加速を打ち消す。
内臓が持ち上げられ、こみ上げてくる吐き気に耐え、着地する。
──何度か似たようなことしているけど、この吐き気はいつまでたっても慣れないな……
俺は辺りを見回す。駐車されたままの自動車の間を縫うようにして走り出す。目指すは上空から見て把握しておいた下り階段。
──二ヶ所のうち、ホームセンター正面から遠い方だから……よし、ここだ。
やはり電気が通っておらず動かない自動ドアを力ずくで開ける。
閉めとくか、一瞬迷う。しかし、何となく勘で開けたままにしてそのまま中へと侵入。
目の前には電気の切れた自販機。左手には止まったエレベーターとエスカレーターが。
俺は一瞬、エスカレーターでもいいかと迷うが、当初の予定通り階段を探すことにする。
ちょっと奥まった所に隠されたように設置された階段がすぐに見つかる。俺は足音をなるべく立てないよう、全身へ重力軽減操作をかける。
慎重に、しかし急いで階段を下りていく。
──無いとは思うけど、人が万が一残っていたら、焼き殺しちゃう事になるからな。ゴブリンだけなら外からぷにっとを大量投入で火をつけるだけの簡単なお仕事なんだけど。
最初の踊り場直前まで、降りて来た。
俺はしゃがみこみ、そっとホッパーソードの切っ先を前に差し出し、鏡がわりにして先を確認する。
──何もいない、な。次の踊り場も折り返しているだけか。下の階まで何回か折り返す構造か。
俺はそのまま下へ降りていく。
三回目の踊り場でも、同じようして、ホッパーソードを差し出す。
──いたっ! 四階の入り口か。敵が居るのを見つけるの、予想よりも早い。外の騒ぎにも持ち場を離れないか……
俺は気がつかれないように素早くホッパーソードを引き戻すと、手すりの下の壁に背中を押し付ける。
ゆっくりと深呼吸。
目の前にカニさんミトンを構える。
イドをこめ、酸の泡を一つ。
そのまま壁を回り込むようにして身を乗り出す。
階段の下に、ゴブリンの後ろ頭が一つ。
酸の泡を打ち出す。
無音のまま空を飛び、ゴブリンの頭へヒット。
ジュウッッという肉の溶ける音。
飛行スキルで一気に階段を飛び降りていた俺は、そのままホッパーソードを横薙ぐ。
叫ぼうとしたのだろう。口を開き息を吸い込んだゴブリンの喉を酸が焼く。
声帯が震える直前、俺のホッパーソードがゴブリンの首を後ろから掻き切る。
溶けながらポトリと落ちるゴブリンの首。
俺は踊り場に激突しそうになりながら何とか反転、両足と片腕を床につき、衝撃を逃がす。
ちらっとゴブリンを見るが、明らかに息絶えている。俺は死体の隠蔽はしないことにして、四階フロアへと進もうと立ち上がる。
目に入る、椅子やごちゃごちゃの家具。
階段からフロアへと続く通路には、バリケードと呼ぶに相応しい物が築かれていた。
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