第115話 ホームセンターへ

 俺は自分の成果を眺める。


「壮観、だな、ある意味」


 目の前には沢山のぷにっと達が立ち働いている。

 目につく範囲の自動車はすべて消え、道路もアスファルトが剥げ、砂利道が広がっている。


 途中からぷにっと注入自体が楽しくなってきてやり過ぎてしまった感は否めない。


 しかし、その分、数えきれないぐらいのぷにっとが生まれていた。


 俺がぼーとその様子を眺めている時だった。キャーという声が、ネカフェの入り口から聞こえてくる。


「江奈さん!?」俺は何事かと走り出す。


 そこには、目をキラキラと輝かせ、魔法拳銃を握った両手を口に当てるポーズの江奈さん。


 その瞳が、忙しげにぷにっと達を見回している。

 獲物を狙う、猛禽のような鋭い眼差し。

 その視点が、一点に定まる。

 その視線の先へ、すたすたと歩き出す。

 流れるような動きで、両手の魔法拳銃は太ももに固定されたホルスターへ吸い込まれていく。


 止まることのない歩み。

 そしてフリーになった江奈さんの両手が、伸ばされる。


 そこには、一体のぷにっとが、近づいてくる江奈さんのことをキョトンと見上げていた。


 江奈さんの両手がそのぷにっとの両脇を掬い上げる。

 幼児を高い高いするようにぷにっとを持ち上げた江奈さん。

 そのまま、ぬいぐるみのようにぎゅっと抱き締める。


「ぷ、プリティ……」そんな呟きが江奈さんの口から漏れたのを、俺は聞いた気がした。


 ──以外に、元気そうなのかな? 足取り、かなりしっかりして見えたけど……


「朽木」


「何?」と俺。


「この子、ちょうだい」と埋めていた顔をぷにっとから持ち上げながら、江奈さん。


「ダメ」


 この世の終わりかという表情で、こちらを見てくる江奈さん。

 何故か、罪悪感にかられながら、俺はぷにっと注入のスキルのこと、倍加のスキルのことも含め、実験した内容と考察を伝える。


「というわけで、ぷにっと達は生きてる、かもしれないんだ。物じゃないんで、勝手にあげたりするもんじゃないから、ね? 言葉は伝わるみたいだから、自分でお願いするのがいいんじゃないかな?」


 という俺の話を聞いて、希望に満ちた表情で、相変わらず抱っこしたままのぷにっとに話しかけ始める江奈。


「ねえ、あなた。うちの子にならない?」


 もぞもぞするぷにっと。

 そっと江奈がぷにっとを下ろす。地面に降り立ったぷにっとは、手を挙げたかと思うと、大きくばつ印を作る。


「そ、そんな……。いや、そうよね、いきなり過ぎたわね。ごめんなさい。まずはお友達から始めましょう」と、ころころと表情を変えながら、最終的にはにっこり笑顔で手を差し出す江奈。


 何故かこちらを見てくるぷにっと。

 俺はとりあえず頷いておく。

 その俺の様子を見て、おずおずと手を差し出すぷにっと。


 腰を屈めた江奈は、自らの手の中のぷにっとの小さなお手々をそっと握る。その優しげな表情に俺は思わずぼーと見いってしまった。

 気がつけば、周りのぷにっと達も江奈達の様子を立ち止まって見ている。


 俺は、ちょうどいいかとばかりに近くに来ていたファルトとウシャを呼び、江奈にも声をかける。


「江奈さん、俺、ちょっと向こうのホームセンターの様子を見てくるよ。この二人のぷにっと、アスファルトから生まれた方がファルトで、自動車から生まれたのがウシャだから。ファルトにウシャ、俺が出掛けている間、江奈の事お願いね」


「朽木、私も行くわ」とキリッとした表情でぷにっととお手々を繋いだまま答える江奈。


「うーん。確かに元気に見える……」と言いかけたところで、江奈と手を繋いだままのぷにっとが、首を振っているのが目に入る。俺がそちらを見ると、ぷにっとがおでこに空いている方の手を当てている。


「熱あるの、江奈さん?」


 俺が聞くと、ばつが悪そうにする江奈さん。

 しかし、ぷにっとと、手は離さない。


「体調戻るまでネカフェで休んでてよ。ぷにっと達も、戦闘は得意じゃないみたいだけど、周囲の警戒なら出来るしね?」と後半、ファルトに問いかける。


 任せとけ、とばかりに胸に手を当ててお辞儀をするファルト。

 そのポーズに目が釘付けの江奈さん。俺は気軽な素振りを出来るだけ意識して、飛行スキルを発動。


「じゃ、ちょっと行ってくるから」


 俺は飛行スキルで浮かび上がる。

 こちらを見上げて手を振るぷにっと達の集団。


「気をつけてっ!」


 江奈の声に軽く手を上げて応えると、俺は一路、ホームセンターを目指して飛び立った。



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